アニメ・漫画・ゲーム・コスプレなどの気になるコンテンツ情報が盛りだくさん!

MENU

18

Feb

【セクシー田中さん】原作をあらためて振り返る。ベリーダンスで自分と周囲を輝かせるアラフォー女子の生き様を描いた傑作


(画像引用 : Amazon)

芦原妃名子先生が生前、最後まで真摯に取り組み大事に描いていた漫画『セクシー田中さん』。
この作品がどんな内容で、どれだけの人に支持されていたのか、そしてどのようなメッセージが込められていたのかを改めて紹介します。

セクシー田中さん以外の作品に関しては、こちらの記事にてまとめております。

芦原妃名子先生の全作品を紹介。代表作『砂時計』は700万部の大ヒット、過去にも複数回の実写化

累計発行部数は100万部突破。『砂時計』『Piece』の芦原妃名子先生が見せた新境地


(画像引用 : Amazon)

2024年1月29日以降、芦原妃名子先生の訃報およびその原因を巡る報道によって、沢山の人が『セクシー田中さん』というタイトルを目にしています。
とはいえ実写化における原作改変の問題が大きく取り上げられる一方で、『セクシー田中さん』の原作がどのような漫画だったのかについては必ずしも知れ渡っている訳ではないとも感じます。
当記事では、芦原先生が最後まで力の限りを尽くして描き続け、そして守ろうとした『セクシー田中さん』という作品を出来るだけ正しく伝えたいと思います。

1994年にデビューした芦原先生は、長期にわたってベツコミ(旧・別冊少女コミック)で少女漫画を手掛け、2003~2006年に連載しドラマ化、実写映画化を果たした『砂時計』で一躍有名になりました。
その後も恋愛サスペンス漫画『Piece』で再び実写化を経験、更に2013年より集英社のヤングレディース誌Cocohanaで30代の恋愛を描いた『Bread&Butter』を手掛けるなど、活動の幅を広げていました。

そして2017年、アラサー女性をターゲットとした小学館の漫画雑誌「姉系プチコミック(通称:姉プチ)」で連載を開始したのが『セクシー田中さん』です。

巻頭カラーで76ページにわたって描かれた第1話は好評を博し、2020年以降は表紙を飾る機会も増えるなど、雑誌の看板作品として定着。
実写ドラマが放送される前の2023年8月時点で単行本の累計発行部数は100万部に到達しました。
この時点で6巻までの発売だった為、巻割(巻平均)18万部以上と間違いなくヒット作と言える水準に達しています。

芦原先生にとって新たな代表作となった『セクシー田中さん』ですが、先生のキャリアにおいてこの作品はかなり異質で、新境地と言っても過言ではありません。
まず目を引くのがタイトル。
これまでの芦原先生の連載作品は砂時計をはじめ、どちらかというと堅めでシンプルなタイトルが多く、『セクシー田中さん』は明らかに異彩を放っています。

過去作と違うのはタイトルだけではありません。
ここからは本作の中身について触れていきます。

「田中さん」は主人公じゃない?


(画像引用 : Amazon)

『セクシー田中さん』は、そのタイトルからもわかるように“田中さん”こと田中京子が主人公の立ち位置にいます。
しかし実際に漫画を読んでみると、必ずしも田中さん視点で描かれている物語ではなく、寧ろ群像劇の様相を呈している事がすぐにわかります。
ですが、本作の中心にいるのは間違いなく田中さんです。

田中京子という人物を一言で纏めると40歳独身OL
先述したように本作を掲載している姉プチはアラサー女子をターゲットとしている為、メインの読者層とはやや年齢の開きがあったと思われます。
にもかかわらず成功を収めたのは、田中さんが多くの読者に支持され共感を集めたからに他なりません。

そんな田中京子をまずは掘り下げていきます。

同僚の女性社員から「自分磨き系」でも「諦めてる系」でもない、スタート地点にすら立っていないと揶揄されるほど地味で飾り気がなく陰気な女性。
実際、化粧も最低限で他人に良く見られようとする意識すら希薄な、同性から見ても枯れているようにしか見えない。
作中における田中さんは、そんな人物像が社内で定着しているようです。

けれど、その田中さんに対し「変化」を感じた同僚がいました。
その同僚とは23歳派遣OL、倉橋朱里です。

若くて可愛く男性から人気の彼女ですが、思考は意外と冷めていて安定志向。
「普通」である事を望み、リスクを避ける凡庸な人生を歩もうとしている朱里は、そのコンプレックスもあって他者の変化には敏感なようで、彼女だけが田中さんの変化に気付いていました。
明らかにスタイルが良くなっている……と。

その朱里がとある日、同僚との会食でペルシャ料理店「Sabalan」を訪れます。
彼女がそこで目にしたのは、セクシー全開の格好でベリーダンスを踊る妖艶な女性たちのショー。
中でも一際スリムで化粧の濃い「Sali」という女性がダンスの最中に近付いて来て……朱里は一目で彼女が田中さんだと気付いてしまいました。

田中さんと一回り以上世代が違う朱里ですが、それからというものの田中さんにすっかり惚れ込み、彼女に付きまとうようになります。

昼間はTOEIC900点越えに加え税理士の資格を持ち「経理部のAI」と称される優秀なOL。
夜間は華やかなステージで己を解放して客を魅了するベリーダンサー。

そんな二つの顔を持つ田中さんですが、実は驚くほど自己肯定感の低い女性でした。

幼少期から顔も性格も周囲に馴染めるタイプではなかったようで、その分一人で勉強に打ち込み上記のようなスペックを手に入れましたが、その代償として友達も彼氏もできた事がない孤独な人生を歩み、気付けば40。
ベリーダンスを始めたのも決してポジティブな理由ではなく、自分の老いさらばえた体に絶望し、両親が褒めてくれた長い手足もキレイに見えなくなっていたからです。

それでもベリーダンスに出会った事で、Sabalanのマスターである三好圭人に生まれて初めて「キレイ」と言われ、田中さんの中にベリーダンスを続けていく理由が生まれました。
例え俗っぽい理由でも、三好が既婚者で到底叶わない恋心でも、彼の隣で踊る為に何度でも曲がった背筋を伸ばす。
こうして、田中さんは胸を張って生きる術を得たのです。

彼女は決して強い訳ではありません。
ベリーダンスによって自信を得たという事は、同時にベリーダンスに縋って生きているとも言えます。
ずっと人と関わって来なかった為、メイクや恋愛には何処までも疎く、可憐でも孤高でもない不器用な女性です。

それでも、そんな田中さんに朱里は強い憧れを抱きます。
男性からモテて器用に立ち回れる彼女ですが、そんな自分を「男受け良く振る舞ってるだけで中身がない」と感じていて、清濁併せ呑む田中さんの生き様に感銘を受けたようでベリーダンスまで習い始めました。
田中さんも朱里の若さと可愛さを羨ましく思っており、二人はお互いにコンプレックスを刺激されつつ、それでも友情を育んでいきます。

このように、本作はピュアで乙女で真っすぐで地にしっかり足がついていてタフでいつも前向きで、でも決して屈強な女性ではない田中さんの物語であり、同時に田中さんに影響を受けていく人々の物語でもあります。

難しいテーマを読ませる「漫画力」と「愛すべきキャラ達」


(画像引用 : Amazon)

『セクシー田中さん』をどのジャンルの漫画として紹介するかは、意外と難題だったりします。

例えばwikipediaではラブコメディとなっていて、確かにそれは間違いとまでは言えません。
この作品はコメディですし、恋愛を描いているのも確かです。

ですが、恋愛が主題かというと決してそうではありません。
この作品の根幹となっているものは「人間」で、『セクシー田中さん』は人間の悲喜交々を描いている漫画です。
そういう意味ではヒューマンドラマが一番しっくり来ます。

けれど、一般的にヒューマンドラマと呼ばれる作風をイメージした場合、本作は必ずしも一致する訳ではありません。
かなりコメディ色が強いからです。
芦原先生はこれまでも少なからずコメディ要素のあるシーンや話を描いていましたが、本作は過去作と比べるとその要素がかなり濃く、明らかにこれまでとは一線を画しています。

尤も、『セクシー田中さん』はギャグをメインとした漫画という訳でもありません。
本作で最も強調して描かれているのは「自己肯定感」
ベリーダンスによって自己肯定感を高められた田中さんと、その田中さんとの出会いによって自分自身を見つめ直し、自分と向き合っていく人達が面白おかしく描かれています。

山田さんをはじめ本作に登場するキャラは皆、育った環境や周囲の評価によって自分を形成していく過程を吐露しています。
そんな彼女達が、人との出会いや一歩踏み出す小さな勇気によって変わって行く様は、自己肯定感の低い読者に共感と希望を与えてくれます。

また、本作はジェンダー論やルッキズムなど、比較的避けられやすいテーマも作品の中に潜ませています
それら一つ一つは主題ではありませんが、人間を描く以上は避けては通れないものばかり。
こういった中々扱い辛いテーマをどう描くか、どう読ませるかという難題への回答として、本作はコメディという手段を選んだのかもしれません。

それを象徴する人物が、笙野浩介という人物です。

彼は36歳で都市銀行に勤める堅物人間。
生真面な性格であるのと同時に極めて無神経で、自分の価値観からズレた事に対しては相手が傷付くような事でも平気で口走ってしまう上、父親の影響で「男は台所に立たない」という古い考えを持ち、好きになる女性は純朴そうな美人ばかり……という時代錯誤の男。
例えば露出の激しいベリーダンスの衣装を着た田中さんに面と向かって「あんたいくつだよ。なんつーかっこしてんすか。痛々しい」と言ってしまうような奴です。

これらのテーマやキャラは、一つ扱いを間違えば大炎上しかねない地雷。
しかし作中で彼は田中さん贔屓の朱里からブチ切れられて殺意を抱かれたり、ある日突然ダラブッカ(酒杯型の片面太鼓)を叩き出したりとコミカルに描かれる為、読んでいて不快に感じる事はありません。

また笙野自身、田中さんとの交流によって「価値観はひん曲がっているけど根は素直」という本来の姿が前面に出るようになり、魅力的なキャラへと変貌していきます。
彼が田中さんの影響で変わっていく姿を見て朱里も次第に笙野への態度を軟化させていき、朱里の心情がそのまま読者心理とも重なっていく見事な導線を引いています。

難しいテーマに対し、本作はユーモア溢れる描写と巧みな構成、そして変わり者ばかりだけど憎めないキャラ達をぶつける事で、エンタメとして昇華しています。
だから人間の光だけでなく影の部分もしっかり描写していながら、誰でも楽しく読める内容になっているのです。

田中さんも朱里も笙野も、その周囲にいる人々も、それぞれ弱い部分や醜い部分を持っています。
友情にしろ恋愛にしろ綺麗事ばかりではありません。
しかし、それでも皆がそれぞれのペースで周囲と関わりを持ち、時に多少無茶をしながらも前向きになっていく姿が、読んでいる人の背中を押してくれるのです。

男性でも楽しめる


(画像引用 : Amazon)

前述したように、姉プチは30歳前後の女性がメイン層です。
しかし田中さんは40歳、朱里は23歳と、どちらもその層とは被っていません。
それでも本作が人気を博したのは、当然漫画としての面白さが第一ですが、もう一つの理由として「かつて朱里だった女性」と「いずれ田中さんになる女性」に刺さったからだと思われます。

客観的に見て十分満たされてはいるのに、自分自身に大して価値がないと思ってしまう朱里。
他者との関わりを恐れ、長らく一人で生きて来てベリーダンスとの出会いによって人生を一変させた田中さん。

そのままピッタリ重なる女性はそう多くはないかもしれませんが、ふんわり親近感を抱く人はかなり多い筈。
そんな読者達の「過去」と「未来」を提示した二人に愛着と共感を抱いたならば、『セクシー田中さん』は30代女性にとって間違いなくバイブルとなり得る作品です。

また、この作品は男性が読んでも十分に楽しめる内容になっています。
笙野、或いは彼の友人で朱里と親しくなる小西一紀はどちらも30代男性ですが、どちらの女性観も中々捻くれています。
いわゆる少女漫画によく登場する「ちょっとワルぶってるけど主人公にだけ優しいイケメン」や「主人公を全肯定してくれる王子様」といったタイプの男性キャラはいない為、地に足が付いた物語として読めるのではないでしょうか。

コメディ色が強めでテンポも良く、ベリーダンスやコスメなど女性ならではのトピックに関しても冗長ではなくキャラクターを第一に描いている作品なので、性別に関係なく漫画好き(特にコメディ好き)なら取っ付きやすい作品になっています。

まとめ

『セクシー田中さん』は本当に面白い漫画なんです。
女性がターゲットの雑誌で連載していたとはいえ、ギャグも多めでキャラも濃くて、男性でも間違いなく面白いと思える傑作です。

残念ながら完結する事は出来ませんでしたが、芦原先生が守ろうとしていたキャラ達、物語、テーマを是非知って頂きたい
そして純粋にこの漫画で笑って欲しいし楽しんで欲しいと切に願います。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です