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俺ガイルの比企谷八幡は平成のアンチヒーローだった。
奉仕部の活動によって絆が深まっていく
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そんな作品ですから、主人公も全然かっこよくないんです。
作中に葉山、という完璧超人のようなイケメン高校生が登場しますが、むしろそっちのほうが主人公然としています。
そうした葉山などのイケメンリア充との対比で、主人公の比企谷はひどく描かれることばかりなんです。
それでも、その卑屈で純粋な精神に心打たれる人が多いのはなぜでしょう。
不格好なまま立ち続けるその姿に、かつて忘れてしまった「願い」のようなものを感じるためです。
冒頭で述べたように、比企谷は青春を欺瞞だと切り捨てます。
自分たちの間違いすら肯定してしまう青春という響きを嫌い、一人を好む彼は常に「本物」を求めているのです。
葉山たちの上位グループに対しても、口には出しませんが「偽物」であるという評価を下しているように思います。
無理やり褒めたり、機嫌をとったりしながら付き合っていくことに比企谷は「本物」を感じられず、一人を好むようになったのでしょう。
そんな彼にも、ついに心を許せる場所が訪れます。それが物語の中心となる場所、奉仕部です。
俺ガイルはフィクションの中から本物を与えてくれる
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人と人は、仲良くなる過程で必ず傷つけ合います。
互いの価値観が完全にマッチすることはほぼありませんから、必ずどちらかの棘がどちらかに刺さる。
いわゆるヤマアラシのジレンマというものですね。
俺ガイルはこのヤマアラシのジレンマが如実に描かれている作品です。
あらゆる問題を解決していく雪ノ下、由比ヶ浜、比企谷の三人は依頼を解決するたびにそれぞれのやり方を模索していきます。
結果重視で自己犠牲もいとわない比企谷、論理的に正確な道筋を導き出す雪ノ下、誰も傷つかないよう優しい解決を探す由比ヶ浜。
考え方も価値観も異なる三人は次第にすれ違い、衝突し、変化しながらも変わらない絆を求めていきます。
比企谷が何より嫌だった馴れ合いでも欺瞞でもない、本物の絆。
そんなものは存在しないと切り捨てるのは簡単です。切り捨てて、それっぽい関係に落ち着けば楽しく学生生活を過ごせます。
しかし、比企谷は最後まで願っていたのだと思います。本物の絆が手に入ることを、最後まで。
紆余曲折を経て、その欠片とも呼べる奉仕部という居場所を、比企谷は手にするのです。
確かにこれはフィクションで、いくらリアルらしいといえど物語ですから予定調和的な部分があることは否めません。
それでも私は、この作品に、忘れてしまった理想や願いといったものを強く感じるのです。
たった一人で理想を守るために戦う比企谷の姿に心打たれる
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筆者の好きな「三秋縋」という作家さんは「世の中には書かれるべくして書かれる物語がある」といった趣旨の発言をしていましたが、この作品はまさに「作られるべくして作られた」作品だと思います。
今、学校や集団で馴染めず辛い思いをしている人。
馴染んだふりをして、日々消耗している人。
誰にも言えない悩みを抱えて生きなければならない多くの人に寄り添う力を持った作品だと思います。
本当はなんでも話せる理解者がほしいんです。
だけどそれは無理だから、私たちはどこかで妥協してしまいます。
いつの日か抱いていた理想をすてて、現実に順応していってしまいます。
そうしてすり減って、疲れてしまったときに、この作品に触れてみてください。
画面やページの向こうには、今でもその淡い理想を抱えてもがく主人公がいます。
その姿は卑屈で、弱くて、痛々しい。
だけどだからこそ応援せざるを得ないんです。
私たちはそのぼろぼろの丸まった背中に、現代のヒーロー像を見るのです。
自分の理想を最後まで信じてもがく、それが叶おうと、叶わなかろうと、かまわないのです。
どこまでも自分に正直に生きることがかっこいい。
そんな泥臭い哲学を感じられることが、この作品最大の魅力なのだと思います。
物語もそろそろ最終章に差し掛かります。
まだ俺ガイルを知らないという方は、この機会にぜひご覧ください。