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俺ガイルの比企谷八幡は平成のアンチヒーローだった。
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とうとう最終章に突入した「俺ガイル」こと『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』は渡航先生原作のライトノベル。
主人公の語りを散りばめた独特な文体と引き込まれるストーリー展開、魅力的なキャラクターが話題を呼び「このラノベがすごい」にも選ばれるなど、一躍人気タイトルに躍り出ました。
物語は、主人公である比企谷八幡が雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣の二人とともに「奉仕部」と呼ばれる部活へ入部するところから始まります。
その名の通りいろいろな人に奉仕をする部活なのですが、寄せられる依頼は多種多様。
学内の揉め事から学外の行事など、あらゆる問題を三人が解決しながら成長していくストーリーになっています。
一見するとシンプルな学園ラノベのようですが、2013年にはアニメ化を果たすなど、その人気はとどまるところを知りません。
俺ガイルが人気になる秘密はどこにあるのか、俺ガイルの魅力について少し深ぼってみようとおもいます。
まずは俺ガイルが持つ一番の特徴に焦点を当て、そこから魅力を引き出してみましょう。
俺ガイルの特徴は主人公の穿った価値観にある
肉まん pic.twitter.com/ffaUd5gCPH
— ぽんかん⑧ (@ponkan_8) December 27, 2018
何と言っても主人公である比企谷八幡の穿った価値観が最大の魅力。
かなり卑屈で陰気な比企谷の観察眼から見える教室の景色は、多くの人が思い浮かべる青春とは程遠い白黒のモノクロームで、殺伐としているのです。
物語の一番最初には、同級生が仲良く語らう青春を「欺瞞」だと切り捨てたり、群れを作らずに生きるつよい熊に憧れる描写が入っています。
およそ一般的な高校生の感性とは外れた価値観を持ち、むしろそれを誇りにしているのです。
そんな比企谷の視点から入る独特のツッコミが散りばめられた地の文は、ライトノベルらしい読みやすさを保ったまま「納得」を与えてくれるんですよね。
そのツッコミはアニメでも健在です。江口拓也さん演じるアニメ版比企谷のキレッキレなツッコミは思わず笑ってしまうこと請け合いです。
特に、そのツッコミの内容は悩み多き青春を送ってきた人であれば同意してうんうん頷けるポイントがかなり多くあります。
逆に、そうでない明るい青春を送ってきた人もグイグイ引き込まれる魅力的なストーリー展開には病みつきになることでしょう。
いずれにせよ、主人公である比企谷の卑屈な視点から描かれる「学校」という場所はどうにも息苦しく、つまらないものなのです。
正直、あのアニメを観ていてけっこうなレベルで気持ちがえぐられるんですよね。
学校の「嫌な部分」を描き出すのが上手すぎて嫌な気持ちになる
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そう、嫌な気持ちになるんです。分かりすぎて。
例えば登場人物の中でもヒロインを務める由比ヶ浜結衣は、いわゆるリア充グループに属す上位カーストの人間。
対する主人公の比企谷はぼっちとしてカースト最底辺に君臨する不動の根暗男子です。
交わり合うはずのない二人は、奉仕部という同一コミュニティに属することで次第に仲良くなっていきます。
このあたりで普通のラブコメアニメであれば主人公が平気で声をかけたりするんですよね、「おっす、おはよう」みたいな。
でもリアルじゃそんなことまずありえないじゃないですか。染み込んだ「カーストなりの振る舞い」を続けるじゃないですか。
俺ガイルが人気の理由はそこにあって、かなりリアルにカースト下位層の思考をトレースしてくれているんですよね。
例えばこの場合で言えば、由比ヶ浜は比企谷に対して「カースト下位だ」という認識は持っているものの、それによって対応を変えたりすることはありません。
しかし下位層から見上げる立場の比企谷は気を使うわけです。自分のような存在と話しているのが見られたら悪いんじゃないか、格が落ちてしまうのではないか、と。
もちろん作中に直接そうした文があるわけではありません。しかし細かな態度にそうした非リアならではの思考や行動が見て取れるんですね。
一緒に部室に行こうと約束していたのに比企谷が教室ではなく廊下で由比ヶ浜を待っていたりするんです。
そうした描写から、比企谷は学校のカースト制を誰よりシビアに、現実的に捉えていて、その恐ろしさについても熟知した振る舞いをしているというのが見て取れます。
学校に通っていた人なら誰もが通る道だと思うんです、カースト制って。
フィクションだからこれらを無視して都合の良い展開だけを続ければ楽しく、カタルシスを得やすい物語が出来上がるでしょう。
ラノベやアニメを息抜きとして楽しむ人にとっては、そうした物語のほうが好ましいでしょう。
俺ガイルという作品は、そうした優しさが欠けています。見ていて疲れますし、胸が痛くなります、一緒になって悩みます。
でもだからこそ、この作品は愛されています。
作中の登場人物、平塚先生の言葉を借りれば「悩まなければ本物じゃない」のです。
この作品は痛切にリアルを描いているからこそ、私達を悩ませます。
フィクションの中から、私たちに本物を与えようとしてくれているのでしょう。