30
Jan
【ウマ娘】3期は何が悪かったのか? 「つまらない」「面白くない」と批判された原因を徹底検証【失敗】
(画像引用 : Amazon)
テレビでの放送から1年が経過した『ウマ娘 プリティーダービー Season 3』の問題点をあらためて検証!
ネガティブな意見が多かった点を踏まえつつ、その背景や今後について出来るだけ冷静に分析していきます!
そもそも本当に低評価だったのか?
(画像引用 : Amazon)
歴史的ヒット作となった2期から3年近く経った2023年秋、ウマ娘3期となるテレビアニメ『ウマ娘 プリティーダービー Season 3』が放送されました。
2期の放送開始時は本来大元となるべきゲーム版もサービスを開始していなかった事もあり、前作の円盤が大ヒットした割に余り期待されていませんでしたが、いざ放送が始まると前作ファン以外からも注目を集め、最終的には1巻のBlu-ray(円盤)売上が20万枚を突破するなどテレビアニメ史上最高セールスを記録。
放送中にようやくスタートしたゲーム版も2100万ダウンロードを突破するなど瞬く間に大ヒットとなり、キャスト陣が「FNS歌謡祭」や「音楽の日」などの人気音楽番組に出演を果たすなど、ウマ娘旋風が至る所で吹き荒れました。
そういった流れもあって、3期は2期の時とは違い大きな知名度と期待を背負っての出陣となりました。
そして第1話の放送が始まると、それまで公表されていなかったドゥラメンテの登場に多くのファンが沸き、堂々の世界トレンド1位を獲得。
2期の狂乱再びという勢いでしたが……そこからは徐々に失速し、円盤売上はSeason 1をも下回る2万強という結果に終わりました。
ウマ娘シリーズ円盤売上
Season 1
1巻 … 3.0万枚
2巻 … 2.4万枚
3巻 … 2.4万枚
4巻 … 3.1万枚
【平均 … 2.7万枚】
Season 2
1巻 … 22.0万枚
2巻 … 19.8万枚
3巻 … 18.6万枚
4巻 … 18.3万枚
【平均 … 19.7万枚】
Season 3
1巻 … 2.4万枚
2巻 … 2.2万枚
3巻 … 2.1万枚
4巻 … 2.1万枚
【平均 … 2.2万枚】
ただ、円盤売上が必ずしも評価を反映しているとは限りません。
そこで、当時の状況を示す一つの指標として各メディアが実施した2023年アニメに関するアンケートの結果を幾つか抜粋してみます。
【アニメ!アニメ!】2023年、一番好きなTVアニメは? … 20位圏外(秋アニメ18位)
【Filmarks】FILMARKS AWARDS 2023 アニメ部門 … 10位圏外
【AT-X】AT-Xアニメランキング 2023! … 11位(シリーズでのランクイン)
【goo】今年一番面白かった深夜アニメランキング … 20位
【niconico】2023年 アニメ総合ランキング … 7位
【5ch】5ch民が選んだベストアニメランキング2023 … 44位
2023年秋には『葬送のフリーレン』『薬屋のひとりごと』など大きな話題になった新作が多く、続編ものは相対的に埋もれやすいという悪条件があったとはいえ、全体的にかなり低い順位になってしまいました。
また、Amazon Prime Videoの評価値もSeason 1が4.5、Season 2が4.8なのに対しSeason 3は2.8と大幅ダウン。
Filmarksでもシリーズ最低の3.8と振るわず、やはり評価は低めと言わざるを得ないようです。
では、評価の推移を「ニコ生アンケート」と「Xのいいねの数」で追ってみます。
第1話「憧れた景色」のニコ生アンケートにおける1(とても良かった)は94.2%。
Season 2の1話は91.8%でしたから上々のスタートです。
その後も第2話「スタートライン」が95.2%、第3話「夢は終わらない」が96.8%と徐々にアップしており、ここまでは順調だったと言えます。
しかし第4話「あたしだけの輝き」で91.2%にダウン。
その後、第6話「ダイヤモンド」で95.5%と高評価を得たものの、それ以外は軒並み90%前後に留まってしまい、Season 2では98.3%を記録した最終話でも86.6%と低調な結果に終わりました。
また、本日放送を告げる公式Xのポストに対する「いいね」の数も、1話から順に1.8万 → 0.9万 → 0.8万 → 0.7万 → 0.7万 → 0.6万 → 0.6万 → 0.6万 → 0.5万 → 0.6万 → 0.6万 → 0.5万 → 0.5万となだらかな下降推移を辿っています。
これらの結果を総合すると、3期は過去作と比べて低評価だったのは間違いありません。
では何故、そのような結果になってしまったのか。
放送から1年が経過した今、あらためて振り返ってみます。
売れすぎた「Season 2」の呪い
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ニコ生アンケートの結果を見る限り、失速したとはいえ視聴者の90%前後が満足したと答えており、少なくとも壊滅的にダメだった訳ではありません。
失速のタイプとしては『ゾンビランドサガ』が近いかもしれません。
ゾンビランドサガの2期も大きな期待を背負ってスタートし、致命的な破綻はなく高評価の回もあったものの、全体的には盛り上がりに欠け回が進むにつれ話題にならなくなりましたが、ウマ娘3期もこれとほぼ同じ印象です。
つまり、ウマ娘3期は特定の原因で急激に失速した訳ではなく、様々な要因が少しずつ積み重なって「面白くない」と思われてしまったのだと解釈できます。
放送当時、「つまらない」「面白くない」と評価していた人達が挙げていた主な理由としては、以下のような意見が多く見受けられました。
・キタサンの宿敵としてサプライズ登場させたドゥラメンテが早々に空気化した
・スピカのメンバーの出番が少なくナイスネイチャの扱いがやけに良い
・新キャラの掘り下げと描写が不足していて思い入れが生まれにくかった
・キタサンの目標がイマイチ定まらない
・レースが物足りなかった
・キタサン失速の理由をピークアウトとしてしまった
・キタサンが引退を決意した事に納得できない
確かに全て、アニメを観ている中で気になった部分ではあります。
ただ、それがどうして気になってしまったかと言えば、やはり2期の存在が大きかったと言わざるを得ません。
例えば主人公の描写に関しても、2期のトウカイテイオーは最初に「憧れのシンボリルドルフに続いて無敗の三冠ウマ娘になる!」という明確な目標があり、それが少しずつ潰えていくという所に悲劇性があり、ドラマが生まれました。
それに対しキタサンブラックは「周りの人達を笑顔にしたい」という目標こそあるものの、それは具体性に欠けたものであり、思い入れが生じるものとは言えませんでした。
構図としては「2期との対比」と見る事もできますが、結局それが「2期よりもキャラが弱い」「2期よりドラマ性がない」との評価に繋がってしまい、2期からの視聴者には劣化と映ってしまったように思われます。
レースにしても、2期はレース自体の描写が少なく、その分一つ一つのレースに戦略性とドラマを沢山盛り込めたのに対し、3期はかなり多くのレースを描いた事であまり尺を使えず、一つ一つの印象が薄れてしまったように感じました。
これも2期との比較がマイナスに働いた結果と言えます。
これらは2期を踏襲すれば十分に回避できた問題であり、「2期とは違うパターンでやりたい」という意識がスタッフ陣の中にあったかどうかは定かではありませんが、少なくともそう見えてしまう内容にはなっています。
2期と3期は共に及川啓監督が指揮を執っており、ファンから高評を得た『ROAD TO THE TOP』のシナリオディレクターを担当した小針哲也さんが本作でも同じポジションを担っています。
脚本家の顔ぶれは一部変わっているので「主要メンバーは同じ」とまでは言えませんが、それが失速の原因と言えるほど様変わりしている訳ではないのが実状。
それよりも、視聴者だけでなくスタッフ陣まで2期を意識しすぎた事が大きな原因と言えるかもしれません。
続編アニメの宿命として、前作との比較は嫌でも行われてしまいます。
前作で良かった点が次回作でなくなってしまうと、必要以上に負の感情を抱いてしまうのは人間の心理として仕方のない事。
3期における最大の失敗は2期を越えられなかった事ではなく、2期を意識しすぎるあまり2期の良い面が消えてしまった事にあると思えてなりません。
「原作に忠実」が仇に?
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ウマ娘というコンテンツが爆発的な人気を得た背景には、競走馬の歴史を「原作」とし、原作に忠実な作りになっている点が挙げられます。
長い競馬の歴史の中で生まれたドラマティックなレースや競走馬同士の関係性はストーリーやキャラクターに深みを与え、競馬を知らない人にとっては新鮮、古参の競馬ファンにとっては思い出話に花を咲かせる事が出来る最高のコンテンツとなりました。
展開的に多少の無理があろうと「原作通りだから」の一言で片付く為、物語を作る上でも融通が利く面が多々あったと言えるでしょう。
しかしテレビシリーズも3期ともなれば、その「原作に忠実」という特色も当たり前になっていき、マンネリの要因となってしまいます。
何より厄介なのが、「原作に忠実」という縛りがワンパターンを誘発してしまっている点です。
競走馬にとって、どうしても避けて通れない「負傷」というトラブル。
これを史実通りに表現してしまうと、常に物語を動かす要素が負傷になってしまうというマンネリが生じてしまいます。
事実、トウカイテイオーは2期の間だけで何度も負傷を重ねていましたし、メジロマックイーンも負傷で一旦一線を退かざるを得なくなりました。
それでも2期の時点では「目標がどんどん失われていく」というテイオーの悲劇性を絡めた事で、ストーリーとして機能していました。
けれども、そういった要素もない3期では、ただのマンネリ展開に繋がってしまいます。
キタサンのライバルとして大々的に登場させたドゥラメンテもその呪縛から逃れる事は出来ず、負傷による戦線離脱を余儀なくされ出番が激減、ライバルとしての存在感も希薄にならざるを得ませんでした。
また、サトノダイヤモンドに関しても同様です。
彼女とキタサンの関係は2期のテイオーとマックイーンを髣髴とさせ、OP映像でもこの2組を重ね合わせる演出を仕掛けるなど、大々的に2期と地続きである事を前面に打ち出しました。
しかしこれは、前述した「2期との差別化」とは相反するもので、ここでも齟齬が生じています。
サトノダイヤモンドは4歳時に凱旋門賞制覇を目指してフランス遠征を行い、そこでの惨敗をきっかけにGIで勝てなくなりました。
よって、史実通りに展開する為には「最後までライバルではいられなかった」という2期のマックイーンと同じ立ち位置にせざるを得なかったのです。
これも「原作に忠実」という縛りがもたらした弊害と言えなくもありません。
史実を曲げずに物語を作るという本作の姿勢は、多くのファンに感動と興奮をもたらしました。
ですが、この縛りを継続したまま新たな物語を作っていくとなると、どうしてもマンネリ展開になってしまうのは避けられません。
にもかかわらず2期との差別化を図った事で、全体的に無理が生じてしまった感があります。
特にその犠牲となってしまったのがキタサンです。
GI7勝という圧倒的な強さを見せ、抜群の知名度を誇っていた事から主人公に抜擢されたものの、テイオーほどドラマティックなエピソードはなく明確な挫折もなし。
最大のトピックである馬主があの北島三郎さんという点も大々的に描くのは難しく、そこからの派生で「商店街の人々に愛されるウマ娘」という個性を得たものの、ここを掘り下げると他のウマ娘との絡みが難しくなる。
キタサンを史実通りに描いて魅力あるストーリーにするというのは、かなり厳しかったと推察されます。
それでも盛り上げる為にはドラマが必要だし、その為には強いキタサンを弱くする何かが必要。
でも史実は曲げられない。
そんな苦悩から生まれたのが、多くのファンから不興を買う事になってしまった「ピークアウト」という概念だったのでしょう。
ピークアウトは「燃え尽き症候群」にすべきだった?
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3期の不評を決定的なものにしてしまった感のある「ピークアウト」。
これは、負傷もなく宝塚記念で9着に沈んでしまったキタサンに対し、そのレースを見守っていたゴールドシップが本人に直接伝えた事でクローズアップされました。
このピークアウトが何故多くの視聴者に不評だったかというと、この時点で史実のキタサンブラックがピークアウトしたという明確な情報がないからです。
実際、その直後の天皇賞(秋)では見事勝利していますし、最終レースとなった有馬記念も1位を取っています。
宝塚記念の前の天皇賞(春) でレコード記録を塗り替える圧勝を見せた事から、「ここがピークでその後は右肩下がりとなった」という見方ができない訳ではありませんが、これまで史実を大切にしてきた本作において不確実な要素を物語の核としてしまった事に、競馬ファン兼ウマ娘ファンの人々は納得できなかったのです。
更にその後、キタサンはピークアウトを自覚し引退を表明します。
これもまた多くのウマ娘ファンからブーイングを浴びました。
『ウマ娘 プリティーダービー』という作品は基本史実に忠実ですが、引退に関しては別。
第一線で活躍するウマ娘が「トゥインクル・シリーズ」という最高峰の舞台で活躍しているのに対し、そこから退いたウマ娘は新たなステージとして「ドリームトロフィーリーグ」でレースを続けるという設定が用意されています。
ドリームトロフィーリーグに関しては今だ曖昧な点が多いですが、3期で描写された情報をもとにすれば「衰えたウマ娘が集うリーグ」という解釈でほぼ間違いないでしょう。
よって、ウマ娘は基本引退はせず、あくまで別リーグへの移籍という形で第一線を退くという設定を遵守していました。
にもかかわらずキタサンが引退を表明した事で、ウマ娘という作品に引退という概念が存在する事を公言する形になったのです。
これによって、「だったら負傷でもう走れなくなったウマ娘はみんな引退していなきゃおかしい」という意見が噴出し、その矛盾に避難が集中したのです。
これらの問題は、既に3期が低迷した後の終盤に登場している為、3期低迷の直接的な原因とは言えません。
しかし低評価を決定付ける一因になってしまったのは間違いないでしょう。
それは放送終了から時間が経つにつれ、より顕著になってきており、3期再評価への流れを遮断する要因にもなっています。
ピークアウト、そして引退という要素をあえて用いた背景には、前述したように「原作に忠実」ではドラマを作るのが困難だったという事情があったと拝察されます。
負傷した事実はない、しかし負けたレースをクローズアップしない事には最終話に向けての盛り上がりを作れない。
その結果、事実かどうかは不明瞭だけれど一つの説として一応の解釈が可能なピークアウトを用い、その延長線上に引退を持って来る事で大きな盛り上がりを作ろうとしたのではないでしょうか。
例えば、ピークアウトではなく「ダイヤを負かした事に罪悪感を抱いた」といった形で不調を表現する事は出来たでしょう。
ただ、それをすればキタサンの勝負に対する考え方を根本から揺るがす事になりますし、余りにも暗くなり過ぎる。
そういう事もあって仕方なく用いた苦肉の策だったのかもしれません。
とはいえ、ここまで不評だと失敗だったと言わざるを得ません。
ピークアウトではなくライバルを下した事で目標を失い燃え尽き症候群に陥り、それをリハビリ中のドゥラメンテが払拭してくれた……というベタな展開の方がまだ良かったかも?
まとめ
3期はキタサンとその他のメインキャラの繋がりが少し希薄にも感じました。
終盤何度も立ちはだかったサトノクラウンはダイヤ寄りのキャラだし、シュヴァルグランは絡み不足で宿敵感がなく、サウンズオブアースに至ってはメインと位置付けた理由がわからないくらいでした。
3期の前に配信された『ROAD TO THE TOP』の主人公ナリタトップロードもドラマティックな宿命を持っていたキャラではありませんでしたが、その役割はアドマイヤベガが担い、またコメディ面はテイエムオペラオーが引き受け、トップロードは「決して立ち止まらない」という熱血路線で魅力を表現できていました。
メインキャラがチームを組んで物語を盛り上げた印象です。
それが3期には足りなかったように感じました。
ウマ娘のアニメは今後も展開していく筈なので、更に進化した所を見せて欲しいですね!