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Sep

【アオイホノオ】マウント武士を徹底検証! 島本和彦先生が60過ぎて生み出したキャリアハイヒロイン


(画像引用 : Amazon)

漫勉neoで話題となり、最近では主人公の座さえも奪った『アオイホノオ』の新ヒロイン、マウント武士を大特集!
『アオイホノオ』どころか島本和彦先生が生み出してきた全てのヒロインの中でも最高峰との呼び声高い彼女を徹底的に解剖します!

連載15年以上の長寿漫画に突然現れた新ヒロイン

(画像引用 : 『ゲッサン編集部』公式X https://twitter.com/gessanofficial

2007年に初めて掲載されて以降、テレビドラマ化や権威ある賞の複数受賞を果たし、島本和彦先生の代表作となった『アオイホノオ』
ゲッサンで連載中の自伝的作品で、初回から大阪芸大の同期・庵野秀明さんが登場したり、島本先生をモチーフにした主人公・焔燃(ホノオ モユル)が当時の高橋留美子先生やあだち充先生の連載作品を独自の視点で批評したりと、インパクトのある内容で読者の心を掴んだ本作ですが……余りに長く続いている為、近年は追えていないという人もいるかもしれません。
実はこの『アオイホノオ』、2020年代に入って大きな転機を迎えました。

14巻でホノオは小学館新人コミック大賞の佳作を受賞し漫画家デビューを果たしましたが、24巻でついに上京を決意し大学を中退。
舞台を一変する事となり、大阪芸大の仲間たちと別れる事になりました。
それはつまり、漫画的にはメインキャラクターの刷新を意味します。

その入れ替わりの中、28巻より登場したのがマウント武士(まうんと ぶし)という奇抜なペンネームの新ヒロインでした。

通常、15年以上続いている漫画でヒロインが交代する事はまずあり得ません。
ましてラブコメでもない作品で、これだけ長く続いた後にヒロインが新しく出てくるのは異例中の異例。
しかし本作はフィクションとはいえ島本先生の半生がモチーフで、登場キャラクターもほぼ実在する人物なので、漫画の定石通りに事が進まないのです。

更にもう1つ、普通の漫画では起こり得ない事が起こりました。
マウント武士が、かつてないほど読者にウケるという事態に……!
しかもネット上でファンアートを数多く書かれるという、これまでの島本作品および島本ヒロインでは余り見られなかった現象が起こり、島本先生の長年のファンさえも驚きを隠せずにいました

そうなった背景には、2023年2月25日に放送されたドキュメンタリー番組「浦沢直樹の漫勉neo」があります。

『YAWARA!』『20世紀少年』など数々のヒット作を送り出してきた浦沢直樹先生がプレゼンターを務め、漫画家の仕事現場を追う本番組に、島本先生がゲストとして登場したこの回。
マウント武士の初登場回の作画工程がピックアップされ、その上ナレーションでも彼女の名前が連呼されるという新参キャラとしては破格の扱いとなり、その可愛さと奇妙な名前とのギャップが視聴者に受け「マウント武士」がトレンド入りを果たす事態となったのです。

ゲッサン誌上では登場済みだったものの、コミックスではまだ出ていなかった事もあって「あの変な名前の可愛いキャラは何者?」と単行本派のファンは色めき立ち、『アオイホノオ』に触れてこなかった人がこの放送を観てコミックスを購入するなど、かなり大きな反響がありました。

漫画家は過酷な職業で人気商売でもある為、60を過ぎても尚続けられている人は稀。
その中でも連載を持ち続け、今までとは違うタイプの新ヒロインを生み出す人となると激レア中の激レア。
そして、そのヒロインが話題になるという事になれば、それはもう空前絶後の出来事と言っても差し支えないほど大偉業です。

つまり、信じられない事が起こっているのです!

何故マウント武士がそれほど支持されたのか。
ここからは、彼女の魅力について迫っていきます。

これまでの島本ヒロインにはなかった「ヒロインである事に躊躇のないヒロイン」

(画像引用 : 『EDITION 88』公式X https://twitter.com/TheEdition88)

マウント武士を紹介する前に、まず前提としてアオイホノオおよび島本先生の作風について触れておかなければなりません。

アオイホノオには初期から登場している年上トンコと津田洋美をはじめ、数人のヒロインが登場します。
特にトンコさんは初回から登場し、ホノオは先輩である彼女に対し淡い恋心を抱いている(ように見える)為、正ヒロインと呼んでも差し支えないポジション。
一方で津田さんの方はホノオに対し積極的にアプローチをかけるサブヒロインのような位置付けです。

こう書くとラブコメの三角関係のようですが、実際にはそのような関係性ではありません。
トンコさんには同じバドミントン部に彼氏がいますし、ホノオは津田さんに対して友達以上の意識はなく、両者とホノオの間にこれといった進展はないまま物語は進んで行きます。

それでも普通なら、何処かで何かしらの関係性の変化や盛り上がりがあって然るべきですが……トンコさんは大学卒業前くらいから極端に出番が減り、なんとそのままフェードアウト
正ヒロインと目されていた彼女ですが、特にこれといったヒロインらしいエピソードさえないまま、回想以外では全く登場しなくなります。
また、津田さんの方もホノオが大学を辞める際に少しだけそれっぽいシーンはあったものの、特に両者の関係性が変わる事はなく、最後も何一つ盛り上がらないままスッと別れ、出番も終了となりました。

これは、本作が実在する人物をモチーフとしている事にも起因していると思われます。
つまりホノオのモチーフである島本先生と、トンコや津田さんのモデルとなった女性との間にこれといった恋愛的な発展がなかった為、それが作品にも反映されたのでしょう。

ただし、こういった主人公とヒロインの関係性は島本先生の作風でもあります。
例えば代表作の1つ『逆境ナイン』でも、ヒロイン枠と思われたマネージャーと主人公が結ばれる事はありませんでしたし、『吼えろペン』の萌もずっとヒロインのような立ち位置であったにも拘らず、男性編集者にときめいてヒロインから実質撤退する展開になりました。
島本先生は基本的に「主人公とヒロインをくっつける」という事を余りしたがらないタイプの漫画家なのです。

回を重ねて行くにつれヒロインの出番が減っていくのも、アオイホノオだけでなく他の作品でも見られる傾向。
『吼えろペン』のあとがきで「萌の話を書く時は編集者の注文が多い」と仰っていましたが、ヒロインを描くと島本先生御自身が書きたい事と編集やファンに求められる事のズレが生じやすく、その難しさもあって敬遠しがちになってしまうのかもしれません。
若しくはギャグ作家を自認している為、ラブコメ的な話を書く事に抵抗や照れがあるとも考えられます。

真の理由は不明ですが、とにかく島本作品はヒロインを話の主軸に置かない事が多いのは確かです。
実はトンコさんのフェードアウト後、尾東君子というホノオを全肯定するメガネっ娘ヒロインを出していましたが、彼女とも結局何一つ進展がないまま疎遠になっています。

そんな中、新たに登場したマウント武士は明らかにこれまでのヒロインとは違う描かれ方をしています。

マウント武士は、週刊連載を持ったホノオのアシスタントとして編集の三上氏から紹介された漫画家志望の女性です。
本名は富士山沙雪(ふじやま さゆ)。
ペンネームのマウント武士は「マウント富士」が由来との事です。

外見は黒髪ロングの正統派美少女で、太めの眉とキリッとした目元、常にローラースケートとサポーターを付けた奇妙な格好が特徴的です。
あとかなりの巨乳ですね。
この外見だけでも、今までの島本ヒロインとは一線を画しています。

性格も同様。
マウント武士と言うだけあってマウントを取りたがる子で、ホノオに対しても挑戦的な態度を取り、自分を「ギャグの天才」と称する自信家でもあります。
ただし無礼という訳ではなく上昇志向が強いだけのようで、身になる技術を教えてくれるホノオに対しては素直に尊敬の念を抱いているようです。

前述した尾東君子に限らず、これまでアオイホノオに出て来たヒロインは基本的にホノオに対して肯定的なスタンスで褒めたり甘やかしていましたが、マウント武士は割とズケズケと物を言います。
その為、他のヒロインとホノオの会話が何処か浮ついた、ある意味ではリアルなものだったのに対し、彼女とホノオの会話は漫画らしい掛け合いになっています。
キャラの造形的にも、今までのヒロインよりは漫画的(創作的)な要素を感じさせるキャラです。

漫画のキャラなのでそれは当たり前……と思われるかもしれませんが、本作は基本実在するキャラをモチーフとしている為か、過去のヒロイン達は漫画的(或いはギャグを前提とした)発言をする事は余りありませんでした。
そういうこれまでの積み重ねがある中で、マウント武士の漫画キャラっぽさはかなり新鮮に、そして可愛く映ります。
一方で極端に破天荒という訳でもなく、自信家だけど自分の至らなさを自覚していたり、自分の服装センスの奇妙さを自虐していたりと常識的な感覚はちゃんと持っており、そのバランスが絶妙です。

通常、生意気なキャラはその言動に対して主人公が辟易する事で「生意気なキャラ」というイメージを強調して読者に伝える事が多いのですが、これだと人によっては不快に感じる事もあります。
しかしホノオは元々細かい事を気にするタイプで、同時に相手の失礼な言動に対しても一旦呑み込んで好意的に解釈するという大人な一面もあるので、マウント武士のちょっと生意気な言動も「気にするホノオが大人げない」「そこまで生意気でもないかな?」という思考に読者が誘導され、全く不快感が生じず可愛さだけが際立ちます。
マウント武士の魅力を主人公のホノオ(+島本先生の作風)が最大限引き出している、と言う事が出来るでしょう。

余談ですが、富士山沙雪という彼女の本名から、モチーフとなっているのは島本先生の元アシスタントの富士原昌幸先生ではないかと言われています。
ただし仮にそうでも、この方は男性なので純粋なモデルという訳ではないでしょう。
富士原昌幸先生とのエピソードを元に、新ヒロインとして創作したキャラがマウント武士なのではないかと推察されます。

よって彼女は「史実で疎遠になった」という理由でフェードアウトする必要がないヒロインと言う事が出来ます。
この点からも、マウント武士が本作の真のヒロインとなる可能性は十分にあるのです。

作者も編集もファンも同業者も熱狂

 

マウント武士は第165章(165話)で登場して以降、現時点の最新話である第175章まで毎回登場しています。
それどころか殆どの回で表紙を飾り、28巻の表紙にも登場。
更に第173章と第174章では主役を務め、第174章に至ってはタイトルジャックに加えホノオさえ一切登場しないというマウント武士無双の回になりました。

どうやら島本先生もゲッサン編集部も、マウント武士に大きな手応えを感じているようです。
それは島本先生のデビュー40周年突破を記念して開催された「炎の原画展」のキービジュアルやグッズに彼女が加わっている事からも明らか。
代表作の主役が並び立つ中に半ばムリヤリ彼女を入れている事からも、その熱の入れようが窺えます。

勿論それは単にお気に入りのキャラというだけではなく、読者の反応や漫勉の反響があっての事でしょう。
実際、『うえきの法則』などで知られる福地翼先生がファンアートを描くなど、その熱は早くもファンや同業者にまで伝染しています。

40年以上のキャリアを持ち、多くの漫画好きと漫画家に愛された島本先生ですが、その代名詞となっているキャラは男性が殆ど。
ここまで特定のヒロインが注目されたのは、もしかしたら初めてかもしれません。
マウント武士は島本先生にとって、キャリアハイと言っても過言ではないヒロインになりそうです。

まとめ

自信家で野心家だけど、素直で純粋。
そこのギャップも可愛さを増幅させている気がします。
ホノオからキリバリを教わっているコマの表情なんか最高に可愛いですよね!

キャリアも長く、人気も知名度も抜群の島本先生ですけど、テレビアニメ化だけは一度も経験していないんですよね。
マウント武士が人気ヒロインになって、今まで島本作品に触れてこなかった人達にも彼女の魅力が届いて、その勢いで『アオイホノオ』のアニメ化企画が立ち上がる……そんな夢のような出来事が起こり得るかも?
マウント武士はそれくらいの可能性を感じさせる、幅広い人達に受け入れられるヒロインだと思います! 激推しです!

 

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