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Mar
『かぐや様は告らせたい』全巻レビュー!本当に文化祭以降は失速したのか?
(画像引用 : Amazon)
2022年に全28巻、全281話でついに完結を迎えた『かぐや様は告らせたい』の全巻レビュー!
「文化祭以降失速した」と言われ続けている本作ですが、果たして本当にそうなのかを徹底検証します!
まだみんな初々しい1巻
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記念すべき第1巻はミラクルジャンプで連載されていた期間のエピソード、第1話~第10話を収録。
以降の単行本も、唯一の例外となる9巻を除いて全て10話分の収録となっています。
一部で「怖い」と噂された表紙もインパクト大でした。
この時点で既に「高度な心理戦に見せかけて各キャラのポンコツな部分を描きコメディに昇華していく」というフォーマットは完成しています。
一方でまだ各キャラ初々しく、特に藤原書記は天然系ジョーカーとして描かれていて、後期の面影は見えません。
まだ1巻とあって特別強いエピソードはありませんが、既にかぐやと白銀会長のキャラは出来上がっていて、特にかぐやの腹黒感が早々に出ている第5話「かぐや様はいただきたい」は印象深いです。
この回を機に、各キャラが一気に動き始めた感があります。
アニメで栄えある第1話のエピソードに抜擢されたのも納得です。
尚、ババ抜き回の第2話「ババ抜きをさせたい」、映画回の第3話「かぐや様はよく知らない」、ナゾ解き回の第4話「白銀御行は答えたい」、会長に悪戯する第10話はアニメではカットされてしまいました。
第2話はSpotify限定のオーディオドラマ、第3話はBlu-ray・DVD(円盤)1期4巻特典のドラマCDで音声化はされています。
ヤンジャンデビューの2巻
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掲載誌をミラクルジャンプから週刊ヤングジャンプに移し、仕切り直してリスタート。
ヤンジャン誌上では第11話「かぐや様は交換したい」を第1話としてカウントしていました。
月刊連載から週刊連載になったものの、ネタが尽きるどころかギャグは更に冴えてきて、将来ヤンジャンの看板になるだけのポテンシャルをこの時点で既に発揮しています。
この巻のハイライトは第18話「生徒会は言わせたい」で、ネットでバズった藤原書記の「ドーンだYO!!」が登場したのもこの回。
ただしアニメでは謎の逆作画崩壊を起こし、ちょっと物足りないものになっていました。
ジョーカーとしての藤原書記はこの頃が全盛期で、以降どんどんポンコツマスコットキャラの道を突き進んでいきます。
尚、間接キス回の第13話「かぐや様は口付けたい」、G回の第15話「白銀御行は逃げ出したい」はアニメではカットされてしまいました。
ただしG回はアニメ3話の特殊EDで少し拾っています。
特訓回&石上登場の3巻
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ヤンジャンでの連載も軌道に乗り、いよいよ本格的に人気ラブコメとして認知され始めた時期。
早坂の多面性を表現した表紙も好評でした。
この回のトピックはなんといっても石上の登場。
正論の刃でぶった切る彼がレギュラーメンバーに加わった事で、一気にコメディとしての幅が広がり、完成度が高まったように感じられます。
実際「石上が入ってから『かぐや様』は面白くなった」という意見は非常に良く聞きます。
その石上が初めて真価を発揮した第28話「かぐや様は入れたい」は初期の名物回の一つ。
本人達が不在だと思ってかぐや、藤原書記の胸をイジりまくる石上に白銀会長が「ブレーキ踏め石上」とツッコむシーンは、この作品を象徴する一幕とさえ言えます。
また、この巻ではのちに名物シリーズとなる特訓回もスタート。
第23話「白銀御行は見せつけたい」は白銀会長、藤原書記の新たな一面を見せる事に成功し、それによって本作の面白さも飛躍的に上昇しました。
尚、少女漫画回の第22話「藤原千花は食べられたい」はアニメではカットされてしまいました。
このエピソードは円盤1期4巻特典のドラマCDで音声化はされています。
いよいよノって来た4巻
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石上が本格的にレギュラー化し、白銀会長の妹・圭が登場して一気に賑やかになったのがこの頃。
早くも2度目の特訓回となった第33話「白銀御行は歌いたい」における『ソ(レ)』、第35話「藤原書記は見舞いたい」のトランプでズルした藤原書記を全力で罵る石上、第38話「かぐや様は許したい」で白銀&石上とかぐや&渚の会話をリンクさせた挙げ句の「うるせぇバーカ!!」など、秀逸なネタやエピソードが続々と登場します。
この頃から一気に「この作品、もしかしてアニメ化まで行くんじゃないか?」と思う読者が増えて来たんじゃないでしょうか。
尚、恋の駆け引き回の第32話「かぐや様は嫌われたい」はアニメではカットされてしまいました。
Spotify限定のオーディオドラマで音声化はされています。
神回と名高い「花火の音は聞こえない」収録の5巻
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4巻で大きく上がったハードルを易々飛び越えてきたのがこの5巻。
この巻は何と言っても「花火の音は聞こえない」に尽きます。
これまでも何度か「良い話」や「真面目な話」といった回はありましたが、この前後編にわたるエピソードはこれまでとは明らかに違う雰囲気で進行します。
四宮家の令嬢ゆえに花火大会すら自由に参加できない立場のかぐや、そんな彼女を白馬の王子様のように助けに向かう白銀というヒロイックかつ青春ストーリーを、完璧な演出とタイトルの妙で鮮やかに彩り、たった2話で綺麗に纏め、最高のストーリーを紡ぎました。
この回はファンから「神回」と言われるほど絶大な人気を誇り、本作の人気を一気に引き上げました(それだけにパロディBGMを使ったり重要なセリフをカットしたりしたアニメの演出にはちょっと不満も……赤坂先生はあのBGMお気に入りだったようですが)。
尚、選択授業回の第47話「かぐや様は選ばせたい」、特訓回調理実習編の第49話「白銀御行は捌きたい」はアニメでカットされてしまいました。
第49話はSpotify限定のオーディオドラマで音声化はされています。
とはいえ特訓回はアニメでコンプして欲しかったですね……
白かぐ暴走気味な6巻
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前巻の「花火の音は聞こえない」までの夏休みエピソードが赤坂先生の言うところの「実験編」だったのに対し、それ以降+この6巻のエピソードは日常回のテコ入れと言わんばかりにコメディ描写が色濃くなります。
のちの「氷かぐや編」に通じるかぐやの脳内会議(第53話「かぐやたちは贈りたい」)、屋上で月見する間に星に心を奪われ無意識の内にかぐやを抱き寄せたり添い寝したりする白銀会長(第56話「白銀御行は見上げたい」)など、二人の暴走が目立つ巻となりました。
第54話「藤原千花は確かめたい」で白銀の誕生日を知らなかった藤原書記を石上が追い込む際の「藤原先輩だけが!??!?」も最高!
この頃にはもう、恋愛を題材としたコメディとして他の追随を許さないほどの域に達した印象さえ受けます。
この巻で最も印象深いのは第59話「第67期生徒会」。
本作のエピソードタイトルは基本的に「○○は○○したい」のような形で、稀に「四宮かぐやについて」ような例外もありますが、名詞だけのタイトルはこれが初。
当初は最終回が近いのかとさえ思いましたが、特にそういう事はありませんでした。
尚、犬猫回の第51話「柏木渚は見てられない」はアニメではカットされてしまいました。
この巻は他のエピソードが強過ぎるので妥当でしょう。
Spotify限定のオーディオドラマで音声化はされています。
伊井野ミコ登場の7巻
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この巻はなんと言っても、生徒会最後の一ピースである伊井野ミコの登場が最大のトピックでしょう。
生真面目で自分の正義を貫くあまり融通が利かず、その所為で周囲から白眼視され傷付いていく。
そんな不器用な彼女と白銀会長の選挙戦が決着まで描かれています。
この選挙編はあまりシリアスになり過ぎず、適度にコメディ要素を交えて描かれています。
壇上でミコに優しく助け船を出す白銀会長はかなりカッコ良かったですね。
彼がラブコメ誌上屈指の人気主人公なのも頷けます。
尚、美術回の第62話「白銀御行は描きたい」はアニメではカットされてしまいました。
ギャグ回とはいえ、かぐやの美的感覚が少々常軌を逸してしまったのでカットは仕方ないでしょう。
人気エピソード目白押しの8巻
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「かぐや様の全28巻でどの巻が一番好き?」というアンケートがあるとしたら、この8巻は1位候補の一つに数えられるかもしれません。
それくらい人気エピソードが多い巻です。
セックスを「セッ…」で止めるかぐやが印象的な第71話「かぐや様は出させたい」、作中の大半を少女漫画風に描いた第74話「かぐや様♡アクアリウム」、そして医者コント回としてあまりに有名な第79話「かぐや様は診られたい」など、コメディ路線では最高峰とも言える完成度を誇っている巻です。
尚、ベルマーク回の第75話「かぐや様は集めたい」、渚おこ回の第76話「柏木渚はめんどくさい」、歓迎会回の第77話 「藤原千花は聞き出したい」はアニメではカットされてしまいました。
76~77話は円盤2期4巻特典のドラマCDに収録されています。
初のシリアス長編「体育祭編」収録の9巻
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この巻のみ11話(第81話~第91話)を収録しています。
理由は「ページ数の都合」との事ですが、結果的に「藤原千花は膨らませたい」を最後に入れた事で綺麗にオチていますね。
この9巻は体育祭編が半分以上を占めています。
体育祭編は『かぐや様』で初めて賛否両論が明確に巻き起こったエピソードです。
その原因は主に「①単純に話が重い」「②結末がスッキリしない」の二つで、石上の美学に賛同する読者もいれば、大友京子をはじめ石上を非難する連中にモヤモヤを感じる読者もいて、様々な感想が飛び交いました。
とはいえ、後年になるにつれ評価が上がった印象を受けます。色んな意味で。
向かうところ敵なしの10巻
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この巻の発売前にアニメ化が発表されて、帯で「TVアニメ化決定!!」とあらためて告知されました。
表紙も生徒会メンバーが全員集合していて特別感がありましたね。
収録エピソードも8巻に匹敵する完成度の高さ。
ミコの闇の部分がいよいよ露呈し始めた第95話「伊井野ミコは癒されたい」、藤原書記のポンコツぶりを遺憾なく発揮した第96話「かぐや様は食べさせたい」、初登場時の台詞から長らく“ウケルちゃん”と呼ばれ、密かに人気を博していたマキがついにメインを張った第98話「四条眞妃は何とかしたい」など見所たっぷり。
特に、アニメ2期のラストを飾った第100話「生徒会は撮られたい」および第101話「生徒会は撮らせたい」は、地味ながら生徒会メンバーの絆を感じさせる良回で、青春の一ページを感じさせる本作の最終回を見た後で読むと、また違った趣きを感じます。
尚、LIKEとLOVE回の第92話「かぐや様を照れさせたい」はアニメではカットされてしまいました。
このエピソードはSpotify限定のオーディオドラマで音声化はされています。
サブキャラの躍進が目立つ11巻
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アニメ化告知効果もあって、ファンの数も一気に増え始めた時期。
体育祭を経て石上がつばめに恋し、早坂が自分の思いを吐露し、白銀会長が進路を明らかにするなど、各キャラが少しずつ現状とは違う方向へ動き始めた頃でもあります。
第105話「石上優はこたえたい」は、3巻収録の第30話「白銀御行は負けられない」以来となる期末テスト回。
「嘘である。」のナレーションで有名ですね。
長期連載になった事で、こういった過去好評だったエピソードのフォーマットを再利用する回も当然出て来ますが、この頃はそれも好意的に受け入れられていました。
尚、アニメ化記念アニメ宣伝回の第110話「石上優は語りたい」はテレビアニメでは当然カットされました。
その代わり3期の宣伝ティザーPV(https://www.youtube.com/watch?v=vFN5K-iAyV0)として映像化されています。
手抜き一切なし、テレビアニメと同等の映像なので、見逃していた人はチェックしてみてください。
過去編収録の12巻
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3巻以降は「頭脳戦」と断言できるようなエピソードは減り、すれ違いや勘違いをしてお互い誤解したまま話が進んで行く、いわゆる「アンジャッシュ状態」のネタが多くなる本作ですが、この12巻の前半に収録されている「白銀御行は告らせたい①~③」はいずれもその技法を駆使して、質の高いコメディを作り上げています。
この巻で最も有名なエピソードは第119話「白銀圭は見せつけたい」ですね。
中二でファッションセンスが止まってしまった白銀に、圭がひたすらツッコみまくる回。
「ウェストポーチをウェストに付けんなあぁ!!」は本作の中でも特に有名な台詞の一つに数えられます。
また、ちょっと荒んだ白銀と氷時代のかぐやを描いた第121話「1年生 春」はかなり貴重な過去エピソード。
コミックスでは前会長が「『夏』編につづくぞう」と言っていましたが、続きが描かれる事は最後までありませんでした。
今後、原作以外で何らかのフォローがあるかもしれません。
尚、かぐやコスプレ回の第112話「白銀御行は告らせたい①」はアニメではカットされてしまいました。
このエピソードはSpotify限定のオーディオドラマで音声化はされています。
でもこのエピソードは映像で観たかったですね……
文化祭編スタートの13巻
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赤坂先生は文化祭までを1部、それ以降を2部というつもりで描いていたと述懐しており、この巻から始まる文化祭編は『かぐや様』第1部のラストエピソードという事になります。
それだけに気合いも入っていて、14巻収録のウルトラロマンティック回に向かって入念な準備を積み重ねていく、いわゆる「溜め回」に当たるのがこの巻です。
第122話「かぐや様は告りたい」では大仏が実は肉食系と判明。
まだこの頃はチョイ役程度だった事もあって、急なキャラ変もギャグの一環として受け入れられていました。
尚、ロシアンたこ焼き回の第128話「かぐや様は撃ち抜きたい」はアニメではカットされてしまいました。
カットしても進行に影響ない回なので仕方ないですが、単発回としてはかなり面白いだけに残念。
みんな大好きウルトラロマンティックな14巻
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第1部のフィナーレを飾った文化祭編後半およびその後のエピソードを収録。
この巻はどうしてもウルトラロマンティック作戦を描いた「二つの告白」前中後編が中心になってしまいますが、それ以外のエピソードもキレキレです。
第138話「かぐや様は教えたい」は、「実は大人のキッスをかましていたかぐや」「実はとてもウブな早坂」「やっぱり神ってた渚」と色んな事が判明した上、大人のキッスからセックスまでの期間を渚から聞いたかぐやの「秒?」がバカウケ。
作中屈指の人気回となりました。
第139話「白銀御行は語り合いたい」では、かぐやの人格の一つ「かぐやちゃん」が完全デフォルメ姿で登場。
まさかそんな悪フザケのような回が、本巻ラストの氷かぐや覚醒に繋がるとは想像もできませんでした。
この巻で第3期は終了。
文化祭以降の氷かぐや編&クリスマスエピソードは、劇場でも公開された『かぐや様は告らせたい-ファーストキッスは終わらない-』で映像化されています。
運命の分岐点「氷かぐや編」の15巻
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『かぐや様』で最も物議を醸したのは、この巻の全編にわたって繰り広げられた氷かぐや編かもしれません。
「かぐや様は文化祭編まで」「文化祭以降失速した」など、ネット上で本作を評する人の多くがこのエピソードを分岐点として語っています。
客観的に見て、大きく評価が分かれ否定的な意見が増えた発端がこのエピソードだったのは確かです。
ただ、かぐやと白銀の内面に踏み込んだこのエピソード、決して質が低かったとは思いません。
確かに「つきあい始めたばかりなのにあんな態度はないだろう」という氷かぐやへの非難は理解できるところですが、白銀と恋仲になった事でその内面に生じた齟齬、そして融和へと向かって行くストーリーは、かぐやというヒロインの人間性をより深く理解できましたし、白銀の弱さの露呈も含めたこの一連の難題を1巻分のエピソードで纏めたのは寧ろ素晴らしいと言えます。
氷かぐやの存在やかぐやの多重人格的内面は以前から示唆しており、唐突な思いつきで描かれたものでもなく、しっかり段階を踏んでいる点も好印象。
実際、後年になるにつれ氷かぐや編の評価は上向いていて、今では「単行本で読めば面白い」という意見もかなり多く見られます。
では何が問題だったかというとタイミングです。
二人がついに結ばれて、読者は「やっと二人のイチャイチャが見られる」「周囲にどうやってバラしていくのか、特に藤原書記がどんな反応するのか見たい」といったモードだったのに、そのタイミングで急にシリアスな長編ストーリーが差し込まれた事で、多くの読者が「見たかったのはこれじゃない」という拒否反応を示してしまったのだと思われます。
一通り期待に沿ったエピソードを描いたのちに氷かぐや編突入だったら全く違った評価になっていたでしょう。
尚、赤坂先生のインタビューによると、『かぐや』様はこのエピソードをエピローグとして締める予定だったそうで、ワンクッション挟まなかったのはそれが原因だったようです。
つばめ先輩の行動が物議を醸した16巻
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白かぐ以外のクリスマスエピソード、特に石上・ミコ・つばめの三人を重点的に描いた巻。
かぐや様が後半失速したと言われる要因は氷かぐや編より寧ろこの辺りからでしょう。
「石上と付き合うつもりはないのに同情で抱かれようとするつばめ先輩」「傷心の石上にひたすら酷い言葉をぶつけるミコ」と、どちらも(そういう心理になる下地があるとはいえ)読者にあまり良い感情を与えるものではなく、ただただ二人の株が下がるエピソードになってしまいました。
一方で第157話「藤原千花は超超食べたい」のオチ、藤原書記があどけない笑顔で「うるさいなぁぶっころすよ?」と告げるコマはネット上でバズり、定番の煽りネタになりました。
まだまだこの作品の影響力は健在と言えますね。
お付合いエピソード満載の17巻
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波風立ちまくりだった前2巻とは打って変わって、日常回のみで構成された巻になりました。
冒頭の2話は生徒会メンバーに隠れて付き合っている状態だからこそ出来るネタで、読者の多くが文化祭の直後に読みたかったのは恐らくこういう話だったと思われます。
特に第170話「白銀御行は話したい」はその筆頭とも言える甘々エピソードですね。
反面、ミコの闇の部分が更に強くなったり、大仏に校内最高峰の美少女設定が追加されたりと、まるで白銀のファッションのように各キャラの要素が渋滞を起こし始めた時期でもあります。
不穏な空気漂う18巻
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石上にキツく当たっていた小野寺の改心、石ミコの進展、白かぐのイチャイチャ……など、平和ないつもの『かぐや様』が続いていきますが、第177話「四宮かぐやの無理難題『燕の子安貝』編④」から状況が変わります。
このエピソードは石上がかぐやにイジられ、早坂が石上にイジられるという珍しい構図で、終盤まではほんわかするお話ですが、ラストの2ページから空気が一変。
早坂がかぐやの付き人を辞めるという流れになります。
更に次の第178話「先輩くんと後輩ちゃん②」のラスト1ページで大仏がつばめ先輩に秘密を暴露する「終わる秘密」編を示唆。
そして第179話「早坂愛のモーニングルーティン」では早坂がかぐやの動向を本家の人間に報告していた事が明らかになります。
いずれも重いエピソードではありますが、導入の仕方と演出がそれにより拍車をかけていて、これから始まる修学旅行編と「終わる秘密」編はかなりキツい話になるかも……と読者を身構えさせる構成になっている点がこの巻、そしてこの後の『かぐや様』の読後感に小さくない影響を与えてしまっている印象を受けました。
これは修学旅行編だけでなく、その後のシリアス展開においても同様です。
早坂メイン&シリアス展開をサッと切り上げる19巻
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前巻に引き続き修学旅行編が展開されていきますが、それほど長くはならず19巻の真ん中くらいで終わります。
「かぐやが早坂を許し、主従関係から対等な友人関係になる」という最終的な着地点はファンの大半が納得したものと思われます。
ただ、そこに至るまでの展開が「肩透かし」だった感は否めません。
仰々しくスタートした割にアッサリし過ぎている印象でした。
氷かぐや編以降、「かぐや様」のシリアスエピソードに関しては非常に風当たりが強くなっていました。
それもあってか「シリアスなお話はあまりウケが良くない」というのが赤坂先生の中にあったのかもしれません。
連載終了後のインタビューで「僕にはコメディ適性があると言われてきました」と述懐している事からも、裏を返せば「シリアスな展開の時には散々言われた」という意識があった事が読み取れます。
その所為で、シリアス展開の中にもギャグ要素をやや多めに入れたり、あまり長くせずアッサリ終わらせたりして、出来るだけ読者がシリアスアレルギーを発症しないよう……という配慮がありありと見て取れました。
この配慮が正解だったかどうかはわかりません。良い面も悪い面もあったように思います。
この頃に【推しの子】の連載が始まった事も影響していると思われます。
一方、この巻には白銀父がユーチューバーになるエピソード(第191話「四宮かぐやの無理難題「燕の子安貝」編⑤」)も収録されています。
この回は後期の名作と言われるくらい評判が良く、「やっぱりかぐや様はコメディ路線だよな」と言われる所以にもなりましたが、同時に「作者の趣味が出過ぎている」という非難も一部で出ていました。
これはのちの「石上がディスコードを推しまくる件」や「ミコがFPSにハマった件」でも散々言われ、「キャラを作者の趣味に染めるな」「脚本の都合でキャラをねじ曲げるな」という意見が噴出していましたが、作者が自分の趣味を作品内に反映させるのは普通の事だと思います。
石つば&石ミコ大論争の20巻
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この巻収録のエピソードに関しては特別波風が立つような回はなく、「つばめが石上の為に何かしようとしている」「大仏が石ミコを支持しない本当の理由」を描きつつ、密度の濃い日常回を積み重ねています。
特に194~195話の「秀知院はバレンタイン」はそれぞれのキャラの想いをチョコを渡すという行為でそつなく表現し、綺麗に纏まったエピソードになっています。
この時期は本編以上に石つば派と石ミコ派のファン同士が激しい大論争を繰り広げていた場外乱闘の方が印象深かったかもしれません。
古くは『スクールランブル』、本作と同時期では『五等分の花嫁』がこのようなカップリング論争をよく巻き起こしていました。
石つば決着の21巻
(画像引用 : Amazon)
この巻のハイライトは「石つば決着」に尽きます。
石上がフラれるという点に関しては、恐らく読者の多くが予想していた事だと思うので割愛するとして……評価の焦点になったのは「つばめが石上をフる為に用意した事」でしょう。
石上の事は嫌いじゃないけど恋人としては見られない、だからフるしか選択肢はない。
彼を傷付けてしまう。
だから、置き土産として彼が少しでも残りの学校生活を楽しく過ごせるようにしたい。
そんな思いでつばめが用意したのは、「石上の濡れ衣をなんとかする」でした。
彼を長らく苦しめていた虚偽の悪評を、発言力の高い面々で『違う嘘』に塗り替えて悪評を上書きする……というアイディアは素晴らしいものの、これからフる相手にそれだけの恩を着せるのは、今後彼女を忘れられなくする「呪い」になってしまう事にもなりかねません。
つばめ先輩はそれも承知の上で、「自分と友人関係のままでいて欲しい」と訴えました。
結果的に、それは「大友京子には何も伝えず一人で泥を被る」という石上の美徳に水を差す行動になってしまいましたが、その美徳をつばめが知る筈もなく、彼女に罪はありません。
ただ読者視点ではどうしても「じゃあ体育祭編はなんだったんだ」となってしまうのも致し方ないところで、この点においてもやはり「読者が見たかったもの」とのズレは否めません。
とはいえ、つばめ先輩にしてみれば「決して嫌いではない可愛い後輩をどうすれば傷付けず(傷付かず)にフる事が出来るか」という難題に直面し、彼女なりに悩んだ末の回答だった筈。
その点において、彼女はかぐや以上に恋愛頭脳戦を必死に戦ったと言う事もでき、この作品のテーマに沿った決着だったという見方も可能です。
決して万人受けはしないし、筋が通っていると言い難い面もありますが、この作品らしい決着だったと思います。
フェイントが目立った22巻
(画像引用 : Amazon)
長らく「白銀にとってのラスボスになるかも」と噂されていた帝が編入してくるも、そんな雰囲気ではなく良好な関係になった……というフェイントからスタートしたこの巻ですが、全体的にはセックスの話ばかりしていました。
そして最終的には白かぐが無事結ばれる事になりましたが、ポイントはその初体験。
告白とキスはあんなにウルトラロマンティックだった二人が、「ヤラないつもりだったけどなんかベッドでイチャイチャしてる内にそんな雰囲気になって結局しちゃった」という、ラブコメ史上類を見ない初体験描写になりました。
この件や帝のエピソードもそうですが、この辺りは「読者の予想を外す」という意図が感じ取れます。
長期連載になった作品によく見られる傾向ですが、元々本作は「従来のラブコメとは違うもの」がスタートだったので、ある意味では既定路線と言えるのかもしれません。
ミコ&大仏大暴走で荒れた23巻
(画像引用 : Amazon)
『かぐや様』最大の問題エピソードとなったのが、この巻のラストに収録された第231話「四宮かぐやの無理難題『仏の御石の鉢』編⑥」から始まるミコと大仏のケンカ……というか大仏の挙動ですね。
以前は「石上の事は異性としてではなく人間として好き」という旨の発言をしていましたが、この回でそれは嘘だったと判明。
この後にも「ミコを応援できない。邪魔しようとまでは思ってない」と言いながらもつばめをサポートする事で間接的に邪魔していましたし、かなりの言動不一致が見られます。
そんな大仏を擁護しミコを責めたかぐやも株を下げる事態になり、例によって「シリアスは長引かせない」という配慮が発動した事もあって、最終的にミコと大仏が仲直りしたとはいえ完全に消化不良で終了。
ハッキリ言って誰も得しないエピソードになってしまった印象です。
ここまでは賛否両論ありながらも良い面は十分見出せるエピソードばかりで、失速という評判ほど悪くない本作の第2部ですが、この大仏関連のエピソードに関しては少々杜撰な印象を受けました。
最終章突入の24巻
(画像引用 : Amazon)
前半の大仏関連の話を引きずって、中々他のエピソードに目を向ける事が難しい巻ですが、第237話「白銀御行は入れたくない」の早坂と白銀の他愛ないやり取りはほっこりします。
本作は基本コメディなので、連載が長くなるにつれて話を作るため各キャラ様々な要素が上乗せされていき、時にそれが不評だったりもしますが、早坂とマキに関しては最後までそういった上乗せがなく初志貫徹したキャラだったように思います。
彼女たちが悪く言われる事がほぼないのもその為でしょう。
そしてこの巻より、『かぐや様』は最終章を迎えます。
お家騒動に石ミコと忙しない25巻
(画像引用 : Amazon)
最終章という事で長編エピソードになるのは当然で、また初期の頃からずっと温めてきた「四宮家の闇」に迫るストーリーという事で、シリアスメインになるのも織り込み済み。
よってこの巻は全て「溜め」の回となります。
一方でそれだけに留まらず、石ミコを一気に進展させたり、かぐや不在の穴を早坂が埋めたりと、ファンが見たいエピソードも盛り込んでいます。
そういう視点で見ると、お家騒動前半戦とも言えるこの巻は総じて良い感じです。
特に第249話「かぐや様は別れたい②」で四宮家次男の青龍からかぐやの手切れ金として10億を引き出し、金に目が眩んだと思わせてそれを軍資金にかぐやを救おうとする白銀はカッコ良く、「これから10億を使ってどう立ち回るんだろう」とワクワクさせる導入回になりました。
呆気ない幕切れの26巻
(画像引用 : Amazon)
非常に期待させる25巻の内容からすると、この26巻で描かれた決着は正直「物足りない」、もっと言えば「諦めてしまったのかな」という印象を抱かずにはいられません。
結局10億を活用できたとは言い難く、カタルシスを感じるような解決策もなく、「四宮家の面々が思ったよりポンコツで、思ったより物わかりがよく、思ったより簡単に片付いた」という決着の仕方になってしまいました。
これまでの本作のシリアス展開の進め方からしても、やはり「不評だし早めに切り上げよう」という意図が見えてしまいます。
シリアス展開にギャグを挟むという構成も、白銀と雁庵の病院コントのような第253話「白銀御行は申し込みたい」は本筋とも絡んでいて評判も上々でしたが、第254話「伊井野ミコは湯切りたい」はこのタイミングでやる意味がわからず茶番にしか見えません。
「花火の音は聞こえない」に代表されるように本作はシリアス路線でも名エピソードは十分あり、赤坂先生は決してシリアス描写が苦手だとは思いません。
ただネット上での評判を真摯に受け止め過ぎて、一部読者のシリアスアレルギーが作者に伝染してしまったような印象を受けます。
例え不評でも、数ヶ月休もうとも、しっかり練った上で描いて欲しかったというのが最終章「かぐや様は告らせたい」の個人的な感想です。
日常回メインで原点回帰の27巻
(画像引用 : Amazon)
最終章と銘打ったエピソードは前巻で終わりましたが、本作はもう少しだけ続きます。
この巻は白銀の留学までの日常を描いており、原点回帰とでも言うべき構成になっています。
ここに至るまで、ネットで様々な事を言われてきた本作なので、ファンだったけど最終回直前のこの辺りの話は読んでいないという人も結構いるかもしれません。
出来ればこの巻だけでも読んで欲しい、というくらい『かぐや様』のパブリックイメージそのままのエピソードが詰まっています。
「かぐや様と言えばこういう感じだよな!」という読者のイメージのままの本作で終わらせたい、という赤坂先生の気持ちも伝わってきます。
各キャラの最終回を描いた大団円の28巻
(画像引用 : Amazon)
ラブコメの新たな金字塔、と言っても過言ではない『かぐや様は告らせたい』という名作を締める最終巻は、メイン・準メインキャラほぼ全員の最終エピソードを収録。
よく完結後に「各キャラのその後」として1ページないし数ページで纏められる内容を、1冊まるまる使ってやったような感じです。
非常に贅沢なエピローグになっています。
とはいえ劇的なストーリーではなく、それぞれに覆い被さっていた問題に対して小さな決着を付ける、各キャラに卒業証書を渡すような内容になっています。
単行本には各キャラの性質であったり未来であったりも解説されていて、それぞれのゴールや新たなスタートを垣間見る事ができます。
メイン勢が全員集合してワイワイとした最終回を想像していたファンも少なからずいたと思いますが、敢えてキャラ毎に独立した最終回を描き、最終数ページを生徒会メンバーだけに限定したのは、この作品の好評も悪評も共に乗り越えてきた彼等5人で終わりたいという、赤坂先生の思いだったような気がします。
あと最終回はやっぱり絵も気合いが入っていて、全てのコマで各キャラが綺麗に描かれていますね。
赤坂先生はよく御自身の画力を卑下なさっていますが、この絵で下手はないでしょう。
とても魅力的な絵です。封印するのはあまりに勿体ない。
ともあれ、7年半という長期連載となった本作の最後を飾るに相応しい、素晴らしい最終巻、そして最終回でした。
まとめ
全てのエピソード、全ての巻をベタ褒めする事は出来ません。
それでも、全28巻全281話全て読み直し、あらためてこの作品は名作だったなと感じます。
物語は完結しましたが、これからもこの作品に出会い、そして一喜一憂する人はたくさん出てくると思います。
赤坂アカ先生、長期連載お疲れ様でした。
そしてこの作品を世に出し、楽しませて下さった事に心から感謝申し上げます。