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【リコリス・リコイル】ヒットした理由を徹底検証! アニメファンはこんな百合アニメを待っていた?
(画像引用 : Amazon)
2022年夏に放送され、大反響を呼んだオリジナルアニメ『リコリス・リコイル』が、なぜここまでヒットしたのかを徹底検証!
制作スタッフやOP映像の反響、百合要素など、様々な視点でこのアニメがヒットした理由を模索していきます!
オリジナルアニメ久々のメガヒット
(画像引用 : Amazon)
2018年、『ゾンビランドサガ』『宇宙よりも遠い場所』が大ヒットした事で、オリジナルアニメの復権が期待されました。
しかし残念ながら後続が続かず、2019年に『鬼滅の刃』が社会現象になった事もあって、ジャンプ連載の人気原作アニメが好評を博す一方、オリジナルアニメは年々存在感を失っていました。
そんな中、久々にオリジナルアニメのメガヒット作が誕生します。
2022年夏に放送された『リコリス・リコイル』です。
オリジナルアニメは原作付きのアニメと違って、基本的にはブランディングが行われておらず、先々の展開がわからない事もあって、放送前の期待度は高くないのが通例です。
本作は、『ソードアート・オンライン』シリーズのキャラクターデザインで知られる足立慎吾さんの初監督作品という大きなトピックがありましたが、それでも各メディアが発表した放送前の期待度ランキングでは、上位に名前はありませんでした。
・dアニメ調べ「今期何見る?2022夏アニメ人気投票」…24位
・Filmarks調べ「2022年 夏アニメ 期待度ランキング」…10位圏外
・アニメ!アニメ!調べ「2022年夏アニメ、期待値の高い作品は?」…10位圏外
・株式会社CMサイト調べ「<2022年夏アニメ>期待値ランキング」…20位圏外
・gooランキング調べ「これは外せない!2022年夏スタートの深夜アニメランキング」…35位
しかし放送が始まると瞬く間に夏クール屈指の注目作となり、『リコリコ』の愛称でアニメファンから親しまれ、評価も尻上がりに上昇。
放送開始から1ヶ月も経っていない2022年7月下旬にdアニメが実施した「今期何見てる?2022夏アニメ人気投票」では堂々の第1位となり、24位だった期待度ランキングから驚異的なジャンプアップを見せるなど、沢山のファンを夢中にさせる人気作へと踊り出ました。
その後も放送を重ねる度に注目度は増し、トレンドランキングで「#リコリコ」が何度も1位を獲得。
9月に発売されたBlu-ray・DVD(円盤)第1巻の売上は3万枚を超え、深夜放送のオリジナルアニメでは2016年放送の『ユーリ!!! on ICE』以来となる快挙を成し遂げています。
実は百合の原点? ありそうでなかった女女バディ
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『リコリコ』がここまでの人気を獲得した理由として、「百合×バディ」というありそうで余りなかったレアな組み合わせが挙げられます。
「百合」は男性ファンに一定の支持層がいる人気ジャンルの一つ。
また「バディもの」も、『TIGER&BUNNY』や『黒執事』など人気作を数多く輩出したジャンルです。
ただ、女性×女性のバディものは過去にあまり例がありません。
バディものの多くは男性同士のコンビで、前述した二作品以外にも『文豪ストレイドッグス』や『ハイキュー!!』にもバディ要素が色濃くあり、過去にも『今日から俺は!』など多数のヒット作があります。
一方、女性同士のバディものは『ハコヅメ』や初期のプリキュアシリーズなどがあるものの、かなり少数です。
まして百合要素のバディものとなると極めてレア。
近年では2021年放送の『裏世界ピクニック』くらいしか該当作はないかもしれません。
しかし、この百合×バディというジャンル、実は最古参の百合好きにとっては「原点」と言えるかもしれません。
というのも、百合というジャンルが二次創作などで大々的に扱われるようになったのは、1980年代に放送されていたアニメ『ダーティペア』の影響が大きいからです。
この作品は百合を扱った訳ではなく、内容はあくまで女女バディもの。
ただ、女性同士が一つの目的に向かって協力し合い、時にぶつかりながらも守り合って絆を深めていくというエモい過程が描かれた事で、決して少なくない数の視聴者が百合好きに目覚めたようです。
その中の一部が自身の妄想を同人誌などで描いた事で、百合文化は静かに広まっていき、1990年代の『美少女戦士セーラームーン』で一気に爆発し、2004年放送『マリア様がみてる』で普及したと言われています。
『リコリコ』は、このダーティペアの再来と言えるかもしれません。
当時と違って百合は既に定着したジャンルですが、近年あまりヒット作に恵まれず、アニメファンの間ではご無沙汰で、鮮度の高い状態でした。
それに加え、千束とたきなの絆が深まり関係性が徐々に築かれていく過程をしっかり描いた事で、本作は今まで百合にあまり興味がなかった層をも虜にしていったと推察されます。
『リコリコ』大ヒットの背景には、「百合」と「バディもの」の相性の良さが大いに関係していると思われます。
メイン2人を輝かせた露骨で巧みなキャラクターデザイン
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『リコリコ』は、これまでのアニメでは余り行われていなかった大胆な試みを幾つも行っています。
その一つが、キャラクターデザインの露骨さです。
マンガやアニメの世界において「キャラクターの描き分け」というのは、本来ならば重要なスキルです。
外見で個性を見せる事によって、それぞれのキャラが独自の魅力を打ち出し、作品に幅や奥行きが生まれます。
ただ、現実にはそういった描き分けを行われる作品ばかりではありません。
特に女性が多く登場する男性向け作品の場合は「全員美少女」が鉄則で、メインキャラだけでなく準メイン、果てはモブまで「目が大きく無難な髪型の美少女」として描かれる事が多いようです。
しかし『リコリコ』の場合は、主人公格の二人である千束とたきなを従来の美少女描写で華やかに描き、それ以外のキャラは「可愛くても癖がある」「可愛さをかなり抑えている」といった描き方がされています。
例えば、クルミは可愛く描かれているものの前髪をアップにしてオデコ丸出しにしていますし、ミズキもメガネのお姉さんキャラという比較的不人気属性を備えています。
そして他の面々に至っては、露骨に可愛さをスポイルしたようなキャラデザです。
この差別化によって、メインの二人の美少女感がグッと増しています。
また、その二人に関しても対照的なデザインです。
千束は金髪気味なボブに赤リボンという幼さと華やかが同居した髪型で、たきなは鉄板中の鉄板である黒髪ロング。
感情表現や愛嬌も正反対とあって、両者はまるで太陽と月のような、典型的な凸凹コンビになっています。
勿論、メインの二人を対照的に描くのはバディものにおける基本中の基本。
ただ『リコリコ』の場合はそこに留まらず、メインとそれ以外についても対照的に描く事で千束とたきなの二人が特別感を備え、一際輝いて見えます。
この二段構えのメリハリによって千束とたきなに人気を集中させた事が、本作を成功に導いた理由の一つと言えるでしょう。
「3秒間の蹴り合い」と「さかなー」に込められた情報量
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『リコリコ』が人気作になっていった過程を、本作の公式Twitterフォロワー数の推移から見ていきます。
・『リコリス・リコイル』公式アカウントのフォロワー数推移
019,000 07月01日(放送前日)
026,000 07月03日(第1話放送翌日)
049,000 07月10日(第2話放送翌日)
078,000 07月17日(第3話放送翌日)
120,000 07月24日(第4話放送翌日)
154,000 07月31日(第5話放送翌日)
187,000 08月07日(第6話放送翌日)
215,000 08月14日(第7話放送翌日)
232,000 08月21日(第8話放送翌日)
264,000 08月28日(第9話放送翌日)
283,000 09月04日(第10話放送翌日)
299,000 09月11日(第11話放送翌日)
314,000 09月18日(第12話放送翌日)
338,000 09月25日(第13話放送翌日)
443,000 02月14日(現在)
第1話放送前は、内容が事前にわからないオリジナルアニメとあってフォロワー数はかなり少なめで、夏クール全体の32位でした。
期待度ランキングも総じてこれくらいだった為、妥当な位置と言えます。
第1話終了後の増加は、実はそれほど高くありません。
たきながまだ狂犬だった頃で、キャラの関係性も明確ではなく、シリアスともコメディとも言えない作風だった事もあり、視聴者も手探りの段階だった事が窺えます。
しかしその翌週、2話放送後にはクール内で増加率No.1に踊り出るなど、一気にフォロワーが増加。
この2話で勢いに乗り、そこからは猛烈なスピードで上昇し続けている事がわかります。
では、2話が神回だったのか……というと、確かに高評価ではありましたが、そこまで爆発的人気というエピソードではありません。
最大のトピックとなったのはOP映像です。
第1話はOPがなく、EDは通常通りだった為、この第2話がOPの初出しとなりました。
このOP映像、千束とたきなの私服姿のカットが次々流れるシーンなど見所は幾つかありますが、最大のインパクト視聴者に与えたのはラストの場面。
千束が隣を歩くたきなのお尻を軽く蹴り、それに対したきなが全力で蹴り返す……という一連のやり取りが視聴者のハートを鷲掴みにし、SNSで話題になって多数のまとめサイトに取り上げられました。
このシーンのポイントは、単純に女子がお尻を蹴り合う珍しいシーンというだけでなく、二人のキャラクターと関係性が一目でわかるところ。
「千束がフザけて軽く蹴る」 → 「たきなが全力で蹴り返す」 → 「千束は苦笑い、たきなは本気で怒る」という僅か3秒のやり取りですが、そこには「千束の天真爛漫さと茶目っ気」「たきなの融通の利かなさと真面目さ」「そんな二人が絡み合う事で生まれる化学反応」「じゃれ合うほど仲良しになる」……といった情報が詰め込まれています。
これによって、視聴者はこのアニメがどんな方向性なのか、千束とたきながどんな関係性を築くのかが見えて来て、一気に関心を持てるようになったのです。
・『リコリス・リコイル』OPムービー
https://www.youtube.com/watch?v=VxR_BYPG7v4
更にもう一つ、大きなターニングポイントとして第4話でたきなが披露した「さかなー」が挙げられます。
梟のネックレスをくれた「大事な人」を10年探し続け、でも見つけられないと落胆している千束に対し、彼女を元気付ける為にたきなが魚の物真似で道化を演じたシーンです。
この場面も、事前に千束がチンアナゴの物真似をした事へのアンサーとしてたきながはっちゃけた……というだけではありません。
第3話で「自分と会えて嬉しい」と言ってくれた千束への恩返しだったり、これまでの自分の殻を破ろうとしている事が窺えたり、全然性格が違う千束にあえて合わせる行動を取る事で「あなたの相棒としてやっていきます」という意思表示だったり……と、様々な情報が組み込まれています。
視聴者はその空気を感じ取り、二人の関係性が深まっていく事に多幸感を抱き、よりこの二人と『リコリコ』が好きになっていったのです。
第4話終了後、フォロワー数が飛躍的に増加しているのはこの為です。
爆発的ヒットの背景には、このようなインパクトと情報量の多さを兼ね備えた名シーンが複数あった事が挙げられます。
巧みな男キャラの活用術
(画像引用 : Amazon)
『リコリコ』の大胆な試みとして、もう一つ挙げておきたいのが「真島」の存在です。
百合要素の濃い作品は、男性キャラをあまり目立たせないのが一般的です。
全く登場させない作品も沢山あります。
百合好きの中には男性キャラを忌み嫌い、男が出てくるだけで観る気が失せるという人も少なくない為、妥当な判断と言えます。
しかし『リコリコ』にはインパクトのある男キャラが複数登場します。
その中でも特に印象深いのが、この真島という人物です。
彼はテロリストとして活動する一方で、自分と同じアランチルドレンの千束に対し強い執着心を抱き、接触を図ってきます。
千束とたきなにとっても明確な敵勢力ですが、この二人(ちさたき)を応援しているファンにとっても非常に邪魔な存在と言えます。
通常の百合作品では、こういったお邪魔キャラを男性にやらせるのはリスクが伴うので、まずしません。
ですが、『リコリコ』はむしろこの真島の描写にかなり力を入れていて、後半はちさたきに次ぐ出番と活躍の場が与えられていました。
にもかかわらず、真島は『リコリコ』ファンの間では割と受け入れられているようです。
最大の要因は、その描かれ方にあると思われます。
真島はアランチルドレンで特殊能力持ちという以外にも、千束と幾つか共通点があります。
映画好きという点、「やりたい事最優先」というポリシー、そして自分の信念に頑ななところです。
こういった共通点が幾つもある事から、千束と真島のやり取りは何処か兄と妹のようにも見えます。
あらゆる点で対照的な千束とたきなの関係性とは対になっていて、これもキャラクターデザインと同じようにメインの二人を際立たせる為の演出と見る事が出来ます。
その為、敵としても千束との関係にしても何処か「噛ませ犬」のような印象を抱かせ、言うほど邪魔にならないのです。
そしてもう一つ、ちさたきに影響する存在があります。
ミカと吉松のカップルです。
喫茶リコリコの店長で、千束の親代わりでもあるミカ。
千束にとって恩人である吉松。
この二人が深い仲のパートナーだった事は、作中の様々なシーンで示唆されています。
この二人の関係性が描かれた事が何を意味するのかというと、「この作品は同性同士のカップルを描きます」という制作陣のスタンスです。
彼等の関係が明確に示唆されている事で、千束とたきなの百合カップリングに関しても何ら問題はないというお墨付きが公式サイドから与えられているのです。
『リコリコ』という作品は、理詰めのストーリーで視聴者を唸らせるというタイプではありません。
物語の大筋や設定については、むしろ大味と言ってもいいかもしれません。
「制服姿の女子が拳銃でドンパチやるアクションもの」という本作のエンタメ重視とも言えるキャッチーな作風は、ともすれば大雑把なイメージを持たせてしまう事もあります。
しかし前述してきたように、この作品は決して雑に作られた訳ではありません。
むしろ、「千束とたきなの関係性を描く物語」としては、あらゆる手法と演出を駆使し、極めて綿密に作られています。
この作品が百合好きに評価され、新たな百合好きを生み出している背景には、計算され尽くした「お膳立て」が潜んでいるのです。
そして同時に、そういったお膳立てを気にせずに楽しめる点も、本作の魅力と言えます。
バランスを重視し、口癖として何度も「バランス取らなきゃなあ!」と叫ぶ真島はキャラとして魅力的ですし、ミカと吉松がそういう関係だと判明した際には単純にインパクト大でした。
百合好きでない人にとっても、『リコリコ』はアクション要素満載のエンタメ性が高いバディものとして純粋に楽しめるようになっています。
百合好きには深掘りできる作品、それ以外のアニメファンには娯楽として純粋に楽しめる作品。
そういう多面的な作りによって、『リコリコ』は幅広いファン層を獲得し、大ヒットに繋がったと考えられます。
まとめ
「ちさたき」の魅力ばかりが注目の的になっていますが、一作品として完成度が高いからこその大ヒットなのは間違いありません。
特に演出面の構造は素晴らしく、ちさたきの魅力を際立たせる為にあらゆる手を尽くしている印象です。
ぜひ、同じスタッフで続編を作って欲しいですね!