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Oct
【九龍ジェネリックロマンス】『恋は雨上りのように』の作者が描くSFラブストーリー
ジェネリックテラ計画とは何なのか
鯨井Bの正体と並んで、本作の大きな謎となっているのが「ジェネリックテラ計画」です。 第1話でもう1つの地球をつくる計画と説明されましたが、詳細は長いこと不明のままでした。
かろうじて分かっていたのは、九龍城塞の上空に浮かぶ謎の正八面体が計画に関わっており、計画の主導権は「蛇沼みゆき」という男が握っているということです。
5巻の最後に当たる44話では、九龍城塞は外から見たら廃墟になっているという衝撃のシーンが登場し、一気に核心へと踏み込みました。鯨井Aや工藤のいる九龍の街には、どうやら限られた人しか入れないようなのです。
ここから、九龍の上空に浮かぶ正八面体は、仮想現実、あるいは現実そっくりの異空間に転送する装置ではないかと考えられます。では、一体何のために幻の九龍は造られたのか。
蛇沼みゆきは49話にて、「記憶を復元できるジェネテラ」と発言しています。このことから、幻の九龍には過去の記憶を復元、あるいは保存できる機能があると思われます。そして蛇沼は、ジェネリックテラ計画と並行し、「ジルコニアン」と呼ばれるクローンの製造を行っていました。
ジルコニアンとジェネリックテラ計画。この2つを結びつけるキーワードが「不老不死」です。蛇沼は48話で、不老不死を実現するためには「記憶の継承」が不可欠であると発言。さらに、ジェネリックテラは不老不死への可能性を示すものだ、とも言っていました。
ここでいう不老不死が、本物そっくりのクローンを造ることを指すなら、ジルコニアンは失敗です。なぜなら、恐らくジルコニアンであると考えられる鯨井Aには鯨井Bの記憶がありませんし、性格もまるで違うからです。
以上のことをつなぎ合わせて考えると、ジェネリックテラ計画は、本物と同一の記憶を持つ完璧なクローンを完成させるためにあり、ジルコニアンはクローンの試作品(失敗作)である、という推測が成り立ちます。蛇沼みゆきの父親が最愛の息子の蘇生を望んでいたので、本物のクローンを造る目的は、不老不死ではなく、死者の復活でしょう。
計画の全貌をまとめるとこうなります。死んだ人間の記憶をよみがえらせるために、その人間が暮らしていた街そっくりの空間(第二の九龍=見える人と見えない人がいる)が造られました。
(※作中の描写では、第二の九龍が人為的に造られたのではなく、偶然生まれたともとれますが、とにかく、第二の九龍が故人の記憶を復元する機能を持っていることは確かなようです。)
そして外見だけはそっくりのクローン(ジルコニアン)も用意。あとはそのクローンに故人の記憶を流し込めば、死者が復活するというわけです。蛇沼の父は死んだ息子を本物のクローンとして蘇らせるため、義理の息子であるみゆきや彼の母親を道具のように利用していました。そのため、蛇沼みゆきは父に激しい憎悪を燃やしています。
残された謎
ジェネリックテラ計画の秘密はうっすらと明かされ始めましたが、作中ではまだいくつもの謎が残されています。
まず、第二の九龍に入る条件は何なのか。作中では本物の(ジルコニアンではない)人間で第二の九龍に入れるのは、工藤とグエン、蛇沼みゆき。それ以外の人間が九龍に足を踏み入れても、目に映るのは廃墟だけのようです。昔の九龍に思い入れがあること以外にも、何か条件がありそうです。
次に、蛇沼父が蘇らせたがっている死んだ息子とは誰なのか。蛇沼みゆきによれば、息子は外見だけそっくりな形ですが、九龍で生活しているとのことです。本物の人間である工藤とグエンを除くと、作中で適した年齢の男はいません。ここも大きな謎の1つです。
そして気になるのは、鯨井Bの死について工藤が「俺が殺した」と発言したこと。二人は婚約までしており、また工藤の性格を考えると、本当に殺したというのは考えにくいです。ただし、彼が鯨井Bの死に深く関わっており、そのことに責任を感じているのは確かなようです。
主人公(鯨井A)は、工藤の心の傷を癒し「本物の恋人」になることができるのか。世界の謎と共に、今後の二人の恋の行方にも注目です。