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Feb
【裏世界ピクニック】紙越空魚と仁科鳥子は百合? 徹底検証
作者公認の百合カップル
出典 : Amazon.co.jp
裏世界ピクニックの作者である宮澤伊織先生は『僕の魔剣が、うるさい件について』でデビューしたラノベ作家で、主にSF作品を手掛けています。
一方で、百合に対しても造詣のある方で、この作品をリリースしてからは様々なインタビューで「これが俺の考える百合だ」と明言しています。
つまり、本作のメイン2人は百合であることを前提に描かれているのです。
では、その事実を踏まえつつ、この2人の関係性を繙いていきます。
2人の出会いは「裏世界」の中でした。
この裏世界というのは、本作の主な舞台となっている空間で、世界の裏側とされる場所。
そこには「くねくね」や「八尺様」などなど、ネット上のホラーや怪談でおなじみの不可解な存在が出現します。
ネットロアや実話怪談を好んでいた空魚と、家庭教師かつ友人だった冴月を探していた鳥子がそこで出会ったのは必然でした。
溺れそうになっていたところを鳥子に助けられた空魚は、鳥子を見て「めちゃくちゃ美人」という感想を抱きます。
それは同性であってもごく普通の感想ですが、その後「死にそうなところにこんなかわいい子が助けに来てくれるとか、よくよく考えれば都合がよすぎる」と脳内で呟いています。
明らかに百合思考です。
まるで白馬に乗った王子様に助けられたかのような物言いです。
この時点で既に、空魚には明確な百合属性が確認されます。
その後、空魚は鳥子が自分よりも多く裏世界を行き来していると知り、ショックを受けます。
自分だけが知っていると思っていた「裏世界」に他者も介入していると知り、大きな落胆を覚えたようです。
つまり、彼女はかなり独占欲の強い性格と言えます。
家庭環境が複雑だったことで、親からの愛情に飢えていたことに起因すると思われます。
この出会いの際、2人は「くねくね」と接触し“第四種接触者”となったことで、共に裏世界に関わるための能力を手に入れ、以降は裏世界の研究者・小桜(こざくら)に裏世界で入手した品を買い取って貰う「裏世界ピクニック」を一緒に行うことになります。
ただこの2人、特に空魚は、ピクニックから連想されるようなワクワクとは縁遠い心情を抱いていました。
独占欲と疎外感
出典 : Amazon.co.jp
空魚と鳥子の関係性は「片想いの連鎖」に該当します。
初対面時からずっと、空魚は鳥子に惹かれており、本人もある程度までは自覚しています。
一方で鳥子は冴月に惚れ込んでいて、彼女を探すために命すら懸けて裏世界を探索し続けています。
ただし冴月は小桜いわく「寄ってくる人間を片っ端から魅了して、都合よく利用する、生まれながらのアルファ・フィメール」とのこと。
ちなみにアルファ・フィメールとは、要するに女性のカリスマです。
空魚の視点で鳥子は、ハイスペックでありながらよりハイスペックな高嶺の花を追いかけ続けている人物に映っていることでしょう。
そんな鳥子によって、凡人である空魚は独占欲と疎外感を刺激されています。
元々独占欲が強いこともあり、空魚は鳥子と出会って間もない頃から、冴月と一度も会っていないにもかかわらず彼女に嫉妬している様子が窺えます。
一緒に裏世界に行こうと鳥子に誘われても、鳥子の目的が「他の女に会いたいから」なので、非常に歯痒い思いをしているのです。
また、裏世界には鳥子と同じように大切な人を探しに来ている人間もいて、鳥子はそれに強い共感を覚えていました。
その際、空魚だけが違う目的だったため、彼女は強い疎外感を抱いています。
これは鳥子が冴月のことを話している時、常に空魚を襲っている感情でもあります。
この独占欲と疎外感は、空魚にとって大きな壁になっていますが、同時にストッパーにもなっています。
これらの強い感情があるからこそ、本作は絶妙な距離感の百合が表現されているのです。
特に、鳥子が頭は良いのに「なんとかなる!」の精神なので、ストッパーの存在は必須と言えるでしょう。
その意味では、両者の間には常に薄くない壁があり、その壁を隔てて向き合っているのが空魚と鳥子の関係性と言えます。
片想いの連鎖の場合、違う方向を向いている関係性が大半ですが、本作の場合はそうではありません。
空魚は当然、鳥子の方を見ていますが、鳥子もまた空魚を見ていない訳ではないのです。
そんな両者は、幾つものピクニックを経て徐々に関係性を深めています。
当初は空魚の一方通行でしたが、その後「冴月のことはもちろん大事だけど、空魚だってとっくに、私の大事な人になってる」と断言するなど、鳥子にとっても空魚はかけがえのない存在になっていきます。
そして、だからこそ両者の間にある壁がより鮮明になり、深みのある百合になっています。
まとめ
異世界モノを連想するようなタイトルですが、このお話の本質はSFでありホラーであり、そして百合です。
百合は明らかにそうとわかる作品(百合姫連載作品など)もあれば、それを連想させるだけに留まる作品もあり、後者の場合はあまり百合百合言うと他のファンから煙たがられてしまうので、どうしても遠慮がちになりますよね。
その点、この裏世界ピクニックは作者渾身の百合なので、百合好きにとっては語りがいのある作品です。
百合という関係は、それだけで同性同士という葛藤の有無にかかわらず、ある種の緊迫感が伴います。
この2人は裏世界における命懸けの探索を通して、その緊迫感がよりエモーショナルに表現されています。
学園・青春モノとは一味違った百合が楽しめるハズです!