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Jan
【負けヒロインが多すぎる!】大成功の要因を徹底検証! 時代は「明るい恋愛」を求めている?
(画像引用 : Amazon)
2024年夏に放送されたテレビアニメ『負けヒロインが多すぎる!』が大ヒットした理由を徹底検証!
本作の魅力やスゴさは勿論、現在のラノベやアニメ業界の背景からアニメ化成功の要因を探ります。2期の可能性についても言及!
「なろう」以外のラノベ発アニメが久々のヒットを記録
(画像引用 : Amazon)
近年、ラノベ発のアニメといえば小説家になろうで投稿されていた、いわゆる「なろう作品」が大半を占めています。
どれくらい占めているのかというと、2024年にアニメ化されたラノベ原作作品(新作のみ)41作品中、実に29がなろう作品。
2023年も新作39作品中29作品がなろうであり、ここ数年はラノベアニメの7割以上がなろう発という事になります。
実際、なろう作品は配信で好調なケースが非常に多く、海外でも受けが良い事から続編が制作される可能性が高い為、アニメ業界からも重宝されています。
世はまさに「なろう時代」。
なろう以外のラノベ作品がヒットするケースは以前と比べ明らかに激減していました。
そんな状況下にあって2024年夏に放送された『負けヒロインが多すぎる!』は、なろう以外のラノベアニメとしては久々のヒットを記録しました。
第1話「プロ幼馴染 八奈見杏菜の負けっぷり」が放送された直後から「#マケイン」がトレンド3位、「負けヒロイン」が6位に入るなど大反響を呼び、ABEMA【アニメランキングTOP20】でも1位を獲得。
第1巻のBlu-ray・DVD(円盤)売上は約6000枚を記録し、【推しの子】2期や『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』を抑え2024夏アニメのトップとなりました。
そして、円盤売上以上に本作の反響を如実に表しているのが原作売上の上昇です。
アニメ放送が始まった2024年7月の原作小説各既刊の電子売上は、なんと先月比10倍以上。
更に翌8月の電子売上も先月比2.5倍以上と伸び続け、同月におけるガガガ文庫全体の82%の売上をマケインが占め、レーベル歴代最高となる月間売上を記録しました。
Amazonなどの各サイトでもラノベランキングの上位を独占し、書籍は総じて売り切れ。
マンガワン・裏サンデーで連載中の漫画版も売り切れが多発する自体となり、近年では異例の賑わいを見せました。
海外での評価も総じて高く、アメリカのアニメメディア「Anime Trending」の2024年夏クールの作品部門で何度も1位となり、アニメメディア「Anime Corner」でも上位常連に。
特にヒロイン人気が高く、メインの八奈見杏菜は様々なジャンルでトップに君臨しています。
何故、本作がこれだけの支持を集めたのか。
ここからは、マケインの魅力について迫っていきます!
負けヒロインを属性化するという発想
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主人公と結ばれないヒロインの事を「負けヒロイン」と表現するようになったのは、ちょうど2010年代に入るくらいの時期でした。
1990年代から2000年代前半にかけて、多くのヒロインが登場し各ヒロインの個別ルートが作られるギャルゲーが隆盛を極めた影響から、複数のヒロインを配置したマンガやラノベが台頭。
『ラブひな』『いちご100%』『To LOVEる』『とらドラ!』『涼宮ハルヒの憂鬱 』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『僕は友達が少ない』などといった作品が続々とアニメ化し、ファンの間では「どのヒロインが最終的に主人公と結ばれるのか?」との話題で持ちきりとなりました。
その流れを決定付けたのが、2009年に放送され爆発的なヒットとなった『化物語』です。
本作は早期の段階で戦場ヶ原ひたぎが主人公の阿良々木暦と恋仲になるにもかかわらず、他のヒロイン達が尚も描かれ続け食い下がっていく異例の構成だった事から、ヒロインに対し勝ち負けの概念を持ち出すファンが数多く生まれ「ヒロインレース」という言葉も誕生し、そのレースに負けたヒロインの事をいつしか「負けヒロイン」と呼ぶようになったのです。
一見すると煽り文句のような言葉ですが、使用されるケースの大半が同情票や愛情を込めたものであり、やがて負けヒロインは一大ジャンルへと成長していきます。
その負けヒロインを、いわゆる「ツンデレ」「ヤンデレ」のような属性として扱ったのが、この『負けヒロインが多すぎる!』です。
通常はヒロインレースの結果敗れたヒロインをそう呼ぶ為、終わった作品のヒロインに使われる事が多い言葉ですが、本作では「主人公以外の男性キャラに失恋した女性キャラ」だけで複数ヒロインを構成するという大胆不敵な試みを行っています。
負けヒロイン自体は定番化し、多くのまとめサイトで負けヒロインとなってしまったキャラを挙げて茶化したりイジったりするまとめ記事が散見されていましたが、それをコンセプトとした作品は極めて稀。
その新鮮さ、負けヒロインという概念やワードの求心力が、本作をヒットさせた要因の一つなのは間違いないでしょう。
負けヒロインならではの「距離感」が魅力
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とはいえ、負けヒロインを並べただけでヒットするほど甘い世界ではありません。
本作が人気を博したのは、負けヒロインをどれだけ魅力的に描くかという点において非常に優れていたからです。
本作におけるヒロインは八奈見杏菜、焼塩檸檬、小鞠知花の3人。
八奈見は冒頭で幼なじみの転校生への恋を後押ししてしまうという形、焼塩は作中で幼なじみに恋人ができたと発覚する形、小鞠は意中の文芸部部長に告白するもそれをきっかけに幼なじみの副部長との仲が進展するという形でそれぞれ失恋しています。
(ちなみに、幼なじみが常に絡んでいるのは「幼なじみ=負けヒロイン」の構図が近年多い事に対しての軽い皮肉も含まれていると思われます)
このように、三者三様とはいえ全員が失恋している為、通常ならば悲壮感が漂ってしまうところ。
しかし本作はシリアス要素こそあるものの、作品全体としてはコメディがメインであり、明るい作風を貫いています。
「負けヒロイン」とはあくまでヒロインレースで敗退したヒロインに対する憐憫の情、或いは正ヒロインにはなれなかったけれど違った役割で作品に貢献したという賛美が下地となって生まれた概念。
作品内の恋愛というよりはキャラクターに対して魅力を感じる人達が惹かれるワードと思われます。
よって、もしこのマケインがコメディではなくシリアスな恋愛ものだったら、評価は全く違うものになっていたでしょう。
負けヒロインという題材に対して求められている作風と本作の作風が一致したからこそ、これだけの人気作になり得たのです。
それは作中における主人公とヒロインの距離感にも現れています。
少なくともアニメ1期の範囲においては、主人公の温水和彦と負けヒロイン達の間に恋愛感情が生じる描写はなく、一定の距離を保っています。
視聴者側としても、ヒロイン達に他の想い人がいるため「ヒロインは必ず主人公に恋する」という通常のラブコメディにおける前提が成り立たず、主人公とヒロインのやり取りに「今後こいつらは恋愛に発展するんだろうか?」という関心を抱かずにはいられません。
この、いわばラブコメディにおける「お約束」であったり「デキレース」的な部分がスポイルされている点が、本作の大きな魅力となっています。
各キャラ、そして作品全体が恋愛という要素から一定の距離を置いているラブコメディだからこそ、他作品とは一線を画した独特な空気感を味わえるのです。
恋愛アニメに「苦悩する主人公」は不要? ギスギスよりも明るさが人気
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前述したように、昔はラブコメといえば主人公一人に対し大勢のヒロインを配置する、いわゆるハーレム系ラブコメが人気でした。
しかし近年『からかい上手の高木さん』の成功を機に、明確に勝ちヒロインである事が確定しているメインヒロインを一人に絞った「一対一」形式のラブコメが主流になっています。
特にラノベの恋愛ものは『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』『わた婚』『ロシデレ』など、アニメ化した作品の大半がこの形式です。
つまり、読者や視聴者が恋愛に対して求めているのはヒロインレースがもたらす緊張と緩和ではなく、例え予定調和であろうと甘々な描写だという事が言えます。
誰が主人公と結ばれるのかは最初から明らかでも構わない、その代わりラブラブな描写を沢山ちょうだい、という意見が多いからこそ一対一ラブコメが主流になった筈です。
その背景には、2000年代にハーレム系ラブコメが増えすぎた事への反動、ギスギス要素への抵抗感などがあると思われます。
ですが、近年は一対一ラブコメこそ多くなり過ぎており、今や王道ラブコメといえばこの形式をイメージする人が多い状況。
となれば、その反動で今度は複数ヒロインのラブコメが新鮮に感じられる時代が到来する可能性が高いと言えます。
マケインが人気を博したのは、一対一ラブコメへの飽きが一つの要因として挙げられるでしょう。
本作の強みは、主人公の恋愛をメインにしていないため「恋愛に苦悩する主人公」が一切描かれていない点にあります。
複数のヒロインの間で揺れ動く主人公像は、遥か昔のラブコメにおいては成立していましたが、今の世の中には明らかに合っていません。
しかし恋愛メインで複数ヒロインのラブコメを描く場合、その葛藤をなくすのはかなり困難。
主人公が一途であれば葛藤は生じませんが、それだと一対一ラブコメと実質変わらず、複数ヒロインと定義する事すら抵抗が生じます。
主人公が恋に悩めば、必然的にウジウジしたモノローグが増え作品全体もギスギスしがち。
それは現代の読者・視聴者は望んではいません。
要するにマケインは、一対一ラブコメが飽和状態の現代において、ハーレム系ラブコメが現代にそぐわない理由を「負けヒロイン」という設定によって回避した事で多くの支持を得たのです。
キャラクターデザインの妙
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マケインはキャラクターデザインにおいても特徴的な事が一つあります。
ヒロイン勢が総じてロングヘアではない点です。
焼塩と小鞠はショートヘア、八奈見は肩まで伸びたミディアムヘア、そして原作7巻から本格登場する白玉リコもミディアムです。
それに対し、主人公の妹である佳樹、ヒロイン勢の想い人と結ばれた姫宮華恋、朝雲千早、月之木古都は総じてロング。
かなり明確に髪の長さで分かれています。
その昔「失恋した女性は髪を短くする」というお約束描写が存在しましたが、本作において負けヒロイン勢は総じて最初から短めの髪型で統一されているのは、恐らく偶然ではないでしょう。
一般的にショートは快活な女の子、ミディアムはおしゃれな乙女、ロングは落ち着いた大人の女性という印象を与えますが、本作における「勝ちヒロイン」が総じてロングなのは、少なからずこのイメージも関連していると思われます。
つまり、負けヒロイン勢はやや子供っぽく未完成、勝ちヒロインは勝者ゆえの余裕があり大人びている、という構図です。
こういったビジュアル面でのイメージを上手く統一している事からも、本作が「負けヒロイン」というテーマを大事にしているのがよくわかります。
それが読者・視聴者のわかりやすさや取っ付きやすさにも繋がっているのでしょう。
2期の可能性は? 実写化の可能性は?
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最後に、マケインの今後のメディアミックについての予想を行っていきたいと思います。
前述したように、本作のアニメ円盤売上は1巻が約6000枚を記録。
これは10年前であっても十分に2期制作が可能なラインを突破しており、普通に考えれば2期は確実と言えます。
電撃オンラインが実施した「2024年夏アニメの放送後人気ランキング」でも堂々の1位を獲得するなどアニメ放送終了後も高い人気を持続しており、ABEMAをはじめ配信でも好調な再生数を記録している事を考えると、かなりの確率で2期が実現すると思われます。
問題はその時期ですが、少し時間が掛かるかもしれません。
ストックについては全く問題はなく、アニメ1期の時点で3巻まで消化したのに対し、2024年11月時点で7巻まで発売されているので、すぐにでも制作可能な状態です。
しかし、本アニメを制作しているのはA-1 Pictures。
大手とあって生産力が非常に高く、毎年5作品前後を放送しているものの、非常に人気の高いスタジオとあって順番待ちになっているのが現状です。
その最たる例が、2022年に大ヒットした『リコリス・リコイル』。
マケインの原作イラストを手掛けている、いみぎむるさんがキャラクターデザインを担当したこのオリジナルアニメ、爆発的なヒットを記録し即座に続編の制作が発表されましたが、あれから2年が経ってもまだ音沙汰ナシの状態が続いています。
リコリコほどのメガヒット作ですら2年も待たされている状況を考えると、1期制作の時点で2期まで決まっているか分割2クールでもない限り、すぐに2期が作られるとは考えられません。
マケインは放送終了後に2期の制作が発表されませんでした。
こういった場合、2期制作は売上次第で決まるケースが多く、恐らくマケインも放送が始まってから2期の検討が行われたものと推察されます。
よって、かなり時間がかかると予想せざるを得ません。
A-1 Picturesは現在、リコリコの他にも『俺だけレベルアップな件』『マッシュル-MASHLE-』の続編や『Fate/strange Fake』の制作が決まっています。
更に『ソードアート・オンライン』の劇場版、映画『アイゼンフリューゲル』の制作も発表されており、2025年のスケジュールはほぼ埋まっている状態。
1年後に2期が実現する可能性は限りなくゼロに近そうです。
ガガガ文庫にしては、本作を『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』以来の看板タイトルにしたいと願っている筈。
ならば当然、2期に関しても乗り気だと思われますが……実はガガガ文庫を運営する小学館は製作委員会に入っていません。
1期の製作委員会(マケイン応援委員会)に参画しているのはアニプレックス、BS11、TOKYO MX、読売テレビ、グッドスマイルカンパニー、コンテンツシード、JR東海エージェンシー。
この中でJR東海エージェンシーはかなり異例で、原作者の雨森たきび先生の出身地である愛知県豊橋市を舞台としている事から、地域振興を兼ねて出資しているようです。
グッドスマイルカンパニーとコンテンツシードはグッズ関連会社としておなじみですね。
つまり、これらの会社が出資を継続するには「聖地巡礼」と「グッズ売上」が非常に重要となってきます。
マケイン効果で地域が賑わい、フィギュアなどのグッズが売れれば、それぞれの会社にとって更なる出資の価値が生まれ、再びアニメ制作の予算が集まるという訳です。
今後のコラボ展開や新商品に注目してみてください。
そしてもう一つ、実写化についても考慮してみましょう。
ラノベから実写化した例としては『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』『図書館戦争』『僕は友達が少ない』『サクラダリセット』『掟上今日子の備忘録』などがあります。
近年はかなり減りましたが『わたしの幸せな結婚』が実写映画でヒットを記録した例もあり、状況は変わりつつあります。
特に近年は舞台化するラノベが多く、ファンタジーものでも頻繁に舞台になっています。
本作は主人公の温水以外にも男性キャラが多いため、男性アイドルをキャスティングしやすく、実写向きの一面がある事を考えると十分にあり得ると予想されます。
まとめ
こういったコメディ要素の濃い非なろうラノベ作品がヒットしたのは本当に久々ですよね。
ハーレム系のようで実際には恋愛に重きを置いていない所も、多くの人に受け入れられた要因かもしれません。
今後の展開に注目しましょう!