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【BanG Dream! It's MyGO!!!!!】バンドリ新作はギスドリMAX! バンドの「裏側」を描いた意欲作【2023夏アニメ】
(画像引用 : Amazon)
2023年夏クールの中でも一際異彩を放っているアニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』を大特集!
これまでの『バンドリ』のアニメとは明らかに作風が異なる本作、その魅力とバンド「MyGO!!!!!」についてまとめました!
マイナスからスタートしたバンドリ新作
(画像引用 : Amazon)
2023年夏、放送予定のアニメ作品の欄に『BanG Dream!』の文字がある事を認識していたアニメファンは沢山いたと思われます。
しかし、そのバンドリの新作に興味を抱いた人は、実のところ余り多くなかったと言わざるを得ません。
それは夏クールが始まる前に各メディアで実施されたアンケートの結果からも明らかです。
dアニメ「今期何見る?2023夏アニメ人気投票」 … 49位
Filmarks「2023年夏アニメ期待度ランキング」 … 20位圏外
アニメ!アニメ!「2023年夏アニメ、期待値の高い作品は?」 … 20位圏外
アニメイトタイムズ「2023年夏アニメ YOUは何観る?」 … 15位圏外
ねとらぼ「2023年夏アニメ」期待度ランキング … 20位圏外
通常、これらのアンケートは人気作の続編が上位にくるもの。
既に面白さが確約されているからこそ続編が作られる訳で、完全な新作よりも期待を持ちやすいのは当然の事です。
ただ、その期待の多くは「物語の続きがどうなるのか気になる」という好奇心によるところが大きく、定番作品の新シリーズに対しては「もう本編でお腹いっぱいだからいいや」と食わず嫌いになってしまうケースも少なくありません。
過去作品で大体の作風は掴めている為、そこで「好き嫌い」「合う合わない」を大半のアニメファンがジャッジし終えている点もかなり大きいと思われます。
バンドリのアニメシリーズはこれまで本編のテレビシリーズ1~3期をはじめ、ミニアニメやスピンオフ、劇場版に至るまで延べ10作品以上が発表されました。
これだけ多くの作品が出されている以上、何処かの段階で「もういいや」となってしまうのは仕方がない事で、特にバンドリは数多くのガールズバンドが登場する為、各バンドのファンでさえも「これ以上は追い切れない」となってしまうリスクを孕んでいます。
その上、本編2期以降は全編を通して3DCGアニメーションで制作されているので、より好みが分かれやすいシリーズとなっています。
2023年夏放送『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』というアニメは、そんなマイナスからスタートせざるを得なかった作品です。
しかし放送が進むにつれ、本作に対する注目度は着実に上がって来ています。
特に衝撃的な内容だった第7話が放送された直後は「#バンドリアニメMyGO」がトレンド1位を獲得するなど、話題騒然となりました。
何故、ここに来てバンドリの新作がアニメファンの心を掴み始めているのか。
その理由を徹底検証します!
「シチュエーション」ではなく「ストーリー」で上質なギスギスを表現
(画像引用 : Amazon)
『BanG Dream!』はブシロードが展開しているメディアミックスプロジェクトで、ゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』とオリジナル&カバー楽曲、そして担当声優によるリアルライブをメインとしたコンテンツです。
中核を担うのは、様々なタイプのキャラが集うガールズバンド達。
正統派ポップスの【Poppin’Party】、壮大な世界観を構築する【Roselia】、爽快なパンクロック・メロコア路線の【Afterglow】、アイドルとバンドが融合した【Pastel*Palettes】、楽しさに特化した【ハロー、ハッピーワールド!】がメインを担い、そこに本格派ロックバンド【RAISE A SUILEN】、幻想的なサウンドの【Morfonica】が加わり、Poppin’Partyの憧れのバンド【Glitter*Green】も含めた面々の奏でる音楽と、彼女達のバンド活動を中心とした日常を様々な媒体で描写しています。
アニメに関してもこのスタンスは変わらず、バンド内における友情やトラブル、バンド同士の繋がり、音楽性の追求などを青春路線で描いています。
全体としてはバンド活動の楽しさや素晴らしさを表現した「バンド賛歌」と言える内容になっていますが、時に激しく意見が対立する事もありますし、トラブルが尾を引いて暗い雰囲気になる事もある為、そういったバンドリのギスギス要素を「ギスドリ」と表現するファンもいるようです。
近年、アニメファンの間ではギスギスした展開はあまり好まれない為か、バンドリのアニメも1期をピークにギスドリ感は減少傾向にありました。
バンドの内情を描く以上、全くギスギスしないという訳にはいきませんが、その表現は徐々にソフトな方向にシフトしていたように思います。
そんな中、令和の時代に生まれたこの『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』という作品は、バンドリ史上最も強烈な感情のぶつかり合いを描いたアニメになっています。
本作のメインキャラとして描かれているのは、ボーカルの高松燈(たかまつ ともり)、ギターの千早愛音(ちはや あのん)、ベースの長崎そよ(ながさき そよ)、ドラムの椎名立希(しいな たき)、ギターの要楽奈(かなめ らーな)の5名。
このうち、燈、そよ、立希の3人はかつて「CRYCHIC」というバンドを組んで活動していましたが、とある理由で解散しています。
そうとは知らない愛音が、入学した羽丘女子学園でバンドを組む為にメンバーを探し、彼女達と出会っていく……というストーリーが展開されていきます。
この作品におけるギスギス要素の根源は、CRYCHICというバンドが全員志半ばの状態で解散してしまった事にあります。
その結果、気弱な燈は深く傷付き音楽活動から離れ、そよはCRYCHICの幻影を追い続け、立希は燈が傷付いた事に落ち込み、かつてのメンバーや姉へのコンプレックスを拗らせてしまいました。
そんな3人を新たなバンド活動へと導いた愛音ですが、彼女も彼女で留学先から逃げ帰ってきたという問題を抱えています。
バンドに対しても「流行ってるから」という安易な気持ちで始め、練習も中々真面目にやらず、あらゆる事に対して踏み込めない弱さが染み付いているようです。
楽奈以外の4人は、それぞれ現実に打ちのめされた後遺症によって何処へ向かえば良いかわからない「迷子」のようになってしまいました。
楽奈もまた、協調性ゼロで「野良猫」と称される気まぐれな人物で、彼女もまた迷子の一人と言えます。
誰もが自分の目的を果たす事で頭が一杯。
他のメンバーを気遣える余裕はなく、ただバンドという同じ檻に入ってそれぞれが明後日の方向を見ている、そんな状態になっています。
当然、そんな状況で和気藹々とバンド活動が出来る筈もなく、本作は常にギスギスした人間関係を映し出す物語となっています。
燈は過去のトラウマから「一生バンドを続けて欲しい」とメンバーに迫るし、立希は燈の為に作曲をはじめバンド内のあらゆる方針を一人で決めるほど背負い込むし、そよは朗らかな顔の裏で「CRYCHICの再現」だけを願い、それ以外の要素(主に愛音)にはまるで興味なし。
メンバーの大半がクソデカ感情を持ち、時にそれを容赦なくぶつけていく……そんな血で血を洗うようなギスギスが、この作品の最大の特徴となっています。
しかもこのアニメは、単なるギスギスでは終わりません。
これまでのバンドリのアニメで描かれていたギスギスは、バンド全体が同じ方向に向かっている過程ですれ違ったり言葉足らずだったりして生じたものでした。
しかし『It’s MyGO!!!!!』で描かれているのは、みんなバラバラで同じ方を向いていない中で生じる、ある意味最高にリアルなギスギス。
そこには今までのバンドリにはないタイプの緊張感があり、彼女達の必死さと焦燥感がダイレクトに伝わってきます。
過去のバンドリがシチュエーションでギスギスを表現していたのに対し、『It’s MyGO!!!!!』は物語全体でそれを表現しています。
その為どうしても重い話になってしまいますが、そこに不自然さやムリヤリ感は一切なく、各キャラの想いや思惑が複雑に交錯しながら進んで行くストーリーによって、ギスギスへの抵抗感よりも「どうしてこんな事になってしまったんだろう?」という強い関心や「この子達が笑顔で演奏するシーンが見たい」という気持ちへと導いてくれます。
そして、ギスギスだけで終わるアニメでもありません。
物語を通して描かれているのは、いつ決壊してもおかしくない関係性でありながら、それでもギリギリのところで踏み止まっている少女達の足掻く姿。
それぞれに叶えたい願いがあって、成就させたい想いがあって、それが少しずつ同じ方向へと向かって行きます。
ギスギスはしているものの、この作品内で描かれているのは紛れもなく青春であり、成長であり、ある意味では純愛でもあります。
バンド「MyGO!!!!!」のコンセプトは「”現実(リアル)”と”仮想(キャラクター)”が同期するバンド」。
それは単に二次元と三次元という話ではなく、リアルな感情をぶつけ合うキャラクターによるバンドストーリー、という意味もある筈です。
CRYCHICという「病」
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過去のバンドリのアニメもそうですし、『ぼっち・ざ・ろっく!』など他のアニメにも言える事ですが、基本的にバンドを題材とした作品は「バンド全肯定」という前提で成り立っています。
例えば「パッとしない生活を送っていた主人公がバンドと出会い、日々をキラキラに輝かせていく」といった内容がそれに該当します。
バンドアニメにとってバンドとは大正義とも言える存在で、メンバーはバンドがあるからこそ生きて行けるし、バンドを続けていく事がメンバーにとって目標であり夢である事が常です。
そしてこの『It’s MyGO!!!!!』は、そんなバンドアニメの定石とも言える部分を逆手に取り、今までに無いバンドアニメを構築しています。
本作で描写されているのは、華やかな事ばかりではないバンドの側面、或いは裏側と言う事も出来るでしょう。
前述したように、本作の主要メンバーの半数以上はかつて別バンド「CRYCHIC」を組んで活動していました。
CRYCHICというバンド名の由来は不明ですが、このような単語はなく「CRY」と「CHIC」を組み合わせた造語だと思われます。
CRYは「泣く、叫ぶ、吼える」といった意味の英語で、CHICは「上品で垢ぬけた」「洗練されている」などの意味を持つフランス語です。
普通に解釈すれば、泥臭さと上品さを兼ね備えたバンドという意味でしょう。
ただ、敢えて「シック」という発音の言葉を用いたのは意味深で、そこには英語の「SICK(病)」を重ねずにはいられません。
CRYCHICは上記の3人だけでなく、中心的役割を担っていたキーボードの豊川祥子(とがわ さきこ)とギターの若葉睦(わかば むつみ)の5人編成でした。
その5人全員が、解散後も何らかの形でCRYCHICを引きずっています。
特に長崎そよに至っては、まるでCRYCHICへの未練を断ち切れずにいる地縛霊のようで、明らかに彼女は今尚CRYCHICという病に冒されています。
バンドが尊くて大切なものというのは、過去のバンドリ作品で幾度となく描いてきました。
しかし本作は、尊いからこそ、大切だからこそ呪縛となってしまう……という負の一面を示しているのです。
これは過去にバンドを組んだ事がある人ならば、一度は体験した「病」かもしれません。
この病から各メンバーがどうやって解放されていくのか、そして迷子達が己の道を突き進む新たなバンド「MyGO!!!!!」がどのようにして誕生していくのか。
それが描かれた時、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』はバンドリ史上最高のアニメという称号を得るかもしれません。
まとめ
バンドリも立ち上げから8年以上経ってかなり定着してきた作品なので、過去作で既に合う合わないを判断した方もかなりいると思います。
そういう「バンドリはもういいや」と思っている方々にこそ観て欲しいアニメです。
特に3話は終始、燈の視点でCRYCHICの誕生から崩壊までが描かれているため彼女の心情が痛いほど伝わってきて、EDで流れる「栞」の歌詞が痛いほど染みてきます。
1~3話を一挙放送したのも納得で、これほど物語と楽曲に心を揺さぶられる事はそうそうないというくらい、素晴らしい作品になっています。
是非一度、3話まで視聴してみてください!